11/10(火)金融財務研究会「M&Aセミナー」

2015-10-11

非上場会社を対象としたM&A、
条件交渉、株式評価、取引スキーム
日時:平成27年11月10日(火)
午後1時00分~午後4時30分
会場:金融財務研究会本社 グリンヒルビル セミナールーム
 (東京都中央区日本橋茅場町1-10-8)
受講費:37,900円(消費税、参考資料を含む)
お二人目から32,000円、
書籍ご持参の方は2,200円引き
日本M&AセンターなどM&A仲介業者の業績が急拡大しているように、昨今、中小企業の事業承継に伴うM&Aに急増しています。

非上場会社のM&Aは、大企業による子会社売却とは異なり、売り手が個人オーナーとなるため、個人株主特有の論点を考慮しなければなりません。すなわち、非上場会社特有のM&Aプロセスや上場会社とは異なる株式評価など特有の論点が存在します。例えば、企業グループ内組織再編を目的とするM&Aにおいて考慮すべき税務上の株価(所得税法上の時価、法人税法上の時価)についての検討が必要となる局面があるため、DCF法やマルチプル法だけ理解していればよいというわけではありません。

そこで、本セミナーでは、非上場会社を対象としたM&Aについて、その特有の論点を整理のうえ、実務手続の進め方(M&Aプロセス)、非上場株式の評価、条件交渉の進め方、取引スキームの立案方法や実務上の留意点を、具体例を交えて解説します。

非上場会社を買収しようとする上場企業のM&A担当者、M&Aアドバイザリー業務を収益チャンスと捉える金融機関の営業担当者や経営コンサルタントの方々にとって極めて有益な内容です。経営者の高齢化による事業承継案件が増加する経営環境を考慮しますと、【買い手:上場企業→売り手:個人オーナー、対象:非上場会社】のM&A実務を習得することは不可欠と言えるでしょう。

1. 非上場会社のM&Aプロセス
1. 個人オーナーの意思決定と売却準備
2. 入札方式と相対取引の対応方法
3. 情報開示と意向表明書の提出
4. 株式譲渡契約書における条件交渉のポイント
(ア) 表明保証、誓約事項及びクロージングの前提条件と、
解除や補償との関係
(イ) デュー・ディリジェンスで瑕疵が発見された場合の条件交渉
5. M&Aを通じた経営承継
2. 非上場会社の株式評価
1. 非上場会社の価値とは何か、どのように評価すべきか
2. M&A株価の評価方法(DCF法、類似上場企業比較法)
3. 税務上の株価の算定方法(所得税法、法人税法の時価)
3. 非上場会社の取引スキーム

1. 売り手が個人オーナーによる株式売却
2. 第三者割当増資と支配権移転と、発行会社による
自社株買取り
3. M&A前の役員退職金支払い
4. 従業員による承継(MBO)
5. 組織再編(会社分割による不動産切離し)を伴うM&A
6. 経営統合(合併、共同持株会社設立)を目的とするM&A
~質疑応答~ 

医療法人の事業承継とM&A

2013-09-25

近年、病院をはじめとする医療機関のM&Aが増加しています。

売り手は後継者不在や将来の経営に対する不安から、買い手は規模拡大による経済的メリット追求や地域医療計画等により病床を獲得することが困難なエリアへの展開を狙ってM&Aを決断するケースが多くみられます。

医療機関のM&Aを理解するためには、そもそも株式会社と異なる医療法人という制度の理解が不可欠です。

(1)医療法人制度の概要

A. 医療法人とは

病院には、個人の開業医が運営するケースと法人の形態で運営するケースがありますが、法人形態をとっているのが医療法人となります。 医療法人は、医療法に基づいて設立されるため、会社法に基づく株式会社と比べて、様々な制度が異なっています。

なお、医療法による区分によると、ベッド数が20床以上のものを病院、それ未満であれば診療所と区別されています。  

B. 医療法人の特徴

イ)非営利性が徹底され、営利目的の病院等の開設は許可されず、出資者に対する配当は禁止されています。「出資持分」という考え方は医療法人の非営利性に反するという見解により、現在では出資持分のある医療法人を設立することはできません(経過措置あり。)。

ロ)設立には都道府県知事の認可が必要です。

ハ)なお、医療法人総数のうち、財団は0.8%、社団は99.2%であり、ほとんどの医療法人は社団となっています(平成23年3月31日現在厚生労働省データ)。

C. 医療法人の類型と出資持分の有無

平成19年4月の第5次医療法改正により医療法人制度は、いわゆる「地上2階、地下1階の制度」となりました。この改正以降は非営利性の観点から出資持分に対する財産権を認めず、出資持分の定めのある医療法人を設立することはできないこととなりました

しかしながら、社団である医療法人のうち持分の定めのあるものが依然として約9割を占めているというデータがあります(平成23年3月31日現在)。医療法人M&Aについても、対象法人が持分の定めのある社団法人であるケースが最も多いものと想定されます。

イ)出資持分の定めあり

医療法人制度の「地下1階」に相当する法人です。旧制度下の法人制度のため現在は新規設立できませんが、既存の法人については当分の間存続が認められています。 出資者に財産権(退社時における持分の払い戻し請求権等)が認められている経過措置型医療法人と、持分の払戻等については払込出資額を限度とする出資額限度法人があります。

ロ)出資持分の定めなし

「地上1階」「地上2階」に相当する法人です。活動の原資となる資金を基金(返還義務のある拠出)という形で調達する基金拠出型法人と、一般の持分なし社団があります。その中でも、特に公共性の高い社会医療法人が「地上2階」にあたります。

D. 医療法人の意思決定機関

社団医療法人の場合は「社員総会」が意思決定機関、「理事会」が職務執行機関という位置付けになっています。なお、社員、理事とも主体になれるのは個人のみです。 出資持分と社員権がリンクしていない点など、医療法人M&Aにおいては非常に重要なポイントです。よって、M&Aの条件に経営陣の退社・入社を入れ込むことは必須となります。

イ)社員総会と社員

社員総会は構成員である社員により組織される意思決定機関です。医療法人においては一社員一議決権となっており、出資持分の多寡と議決権数は関係がありません。 すなわち、株式会社と異なり、持分のある医療法人であったとしても出資持分を増やして議決権を押さえるといったことはできません。 社員が出資持分を持つかどうかは医療法人の定款で決まるため、全く持分の無い方が社員となっていることもあり得ます。

ロ)理事会

医療法人は、理事を3人以上置かなければなりません。理事は、理事会という機関で医療法人の職務執行権限を持つこととなります。なお、理事のうち1名を理事長として選出する必要があります。理事長は原則として医師である必要があります、都道府県知事の認可を受けた場合に限り例外として非医師であっても選出可能です。

E. 医療法人が行うことのできる業務(介護との関連)

医療法により、医療法人が行うことができる業務は「病院」「診療所」「介護老人保健施設の運営」と定められており、これらを本来業務と呼んでいます。医療法人はこの他、本来業務に支障を来さない範囲で附帯業務(看護等の専門学校、薬局、有料老人ホームなど限定列挙)・付随業務(病院敷地内の売店、駐車場など)を運営することが可能です。

(2)医療法人のデュー・ディリジェンス

デュー・ディリジェンスにあたり、貸借対照表、損益計算書や各施設毎の採算管理資料、入院患者回転率表など財務・経営関連資料の調査はもちろん重要ですが、それらに加えて以下の項目がポイントになります。

イ)医療法人の類型等の確認(決算届の入手)

持分の定めのある法人か否かといった点を含め、医療法人の類型等を確認することが非常に重要です。医療法人の類型を確認できる資料として「決算届」が挙げられます。これは、医療法の規定に基づき医療法人が都道府県知事に対して毎年提出する書類です。この決算届は事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監事監査報告書で構成されており、医療法人の類型を含む全体像を確認するための有益な資料です。

ロ)診療報酬関連

日本の社会保障制度の中では、医療費の一部を国民負担、残りを健康保険組合等の保険者が負担することになっています。患者が診察を受けた後、医療機関は診療報酬請求書とレセプト(診療報酬明細書)を社会保険支払基金などの審査支払機関に提出・請求します。その医療機関のレセプト枚数により規模感を確認したり、支払基金からの入金通知書を入手して手続が適正に行われているか、過誤請求がどのくらい生じているか等を確認することが重要です。

なお、医療法人の社会保険診療報酬等については、事業税が非課税となります。 医療法人の評価を行ううえで繰延税金資産・負債を計上する際には、適用する実効税率にもご注意ください。

ハ)固定資産

建物や医療機器などに老朽化が進んでいる場合、M&A後に多額の投資が必要となることが想定されるため、いわゆる税務上の時価による評価では妥当性の確保が難しいケースがあります。また、医療機関の土地については流動性が低いことから、相続税評価等一般的に採用される評価額に連動しないこともあり得ます。 特に不動産については、場合によっては不動産鑑定評価書によって適正な価値を算定することや中長期的な修繕費用等の維持コストを見積もることが必要になることもあります。

二)人材の確保状況

医療機関にとって、人材の質を保つことは非常に重要です。特に医師・看護婦の採用について、一定のルートを確保しているかどうかを確認する必要があります。医師であれば医大の特定の医局にルートがある、看護師であれば地元の専門学校にルートがある、といった情報を入手することが重要です。他の業界に比べ、医療機関は多数の有資格者で構成されていることから人材についてもある程度の流動性がありますが、採用ルートの有無により経営の安定性をある程度予測することができます。

ホ)MS法人

MS法人とは「メディカルサービス法人」の略で、医療行為以外のサービスを提供するための法人です。医療法人への不動産賃貸やリネンサービス、医薬品の仕入・在庫管理等の医療周辺業務を提供することが一般的です。これにより、医療サービスに係る収入が医療法人とMS法人に分散されることとなります。

業務委託料や手数料率の設定等、税務署は節税目的のMS法人活用を比較的厳密に見る傾向がありますが、MS法人を積極的に活用し運営している医療法人が多数存在します。 医療法人の正常収益力把握ならびにM&A実行後のMS法人の取扱いを検討する必要があるため、MS法人を含めた対象医療法人グループのビジネス・フローを分析することが重要です。

(3)医療機関M&Aの取引スキーム

病院をはじめとする医療機関のM&Aを検討する際には、株式会社をはじめとする事業会社のM&Aとは異なり出資持分の有無や医療法・各自治体の認可といった業界特有の事項に配慮しつつ進めていく必要があります。

医療法人は、事業譲渡に加え、合併出資持分の譲渡経営陣の交代によるM&Aが可能です。前述の通り、「持分の定めのある法人」「持分の定めのない法人」のどちらに該当するかによって取り得るM&Aの手法が異なるため、留意が必要です。

イ)合併

組織再編行為については、医療法の中で合併(新設合併・吸収合併)のみが認められています。社団法人同士もしくは財団法人同士であれば合併が可能です。

ロ)出資持分の譲渡

持分の定めのある法人は出資持分譲渡によりM&Aが可能です。医療法には出資持分の譲渡に関する特段の規定が置かれていませんが、実務上は一般的に用いられています。この際、出資持分譲渡に伴い社員・理事長の退任を組み合わせることで医療法人の財産権と支配権の両方を移転させることになります。そこで、売り手にとっての手取額、買い手にとっての初期投資額の調整のため、医療法人のM&Aの対価を出資持分価値と役員退職金支給額に分けることも多く行われます。

ハ)社員の入社・退社

持分の定めのない法人は社員の入社・退社により、財団の場合は理事・評議員・監事の交代によりM&Aを行います。この場合、退任する経営陣に退職金を支給することをM&Aの対価として取り扱う手法が一般的です。

(4)スキーム検討上の注意事項

イ)対象医療機関が補助金の交付を受けている場合

医療機関が自治体から交付を受ける補助金については、通常は使途制限が設けられています。M&Aの対象となる医療機関が自治体から補助金の交付を受けて建物や医療機器を取得している場合、これら使途制限に該当してしまうときは補助金を返還する必要が生じます。M&Aを進めていく中で、対象医療機関が補助金を受けているかどうか、またその補助金の使途制限がどのような種類のものかを確認することが重要です。

ロ)理事長の利益相反取引について

医療法では、医療法人の利益を犠牲にして理事長個人の利益を優先する可能性のある「利益相反取引」について規定を置いています。理事長の所有する不動産(病院敷地など)を医療法人が譲り受けるケースや、医療法人から理事長への贈与など利益相反取引に該当する場合、特別代理人を選任する必要があります(医療法には罰則等の規定はありませんが、民法の規定を準用し無効な取引になるという考え方があります)。 M&Aのスキーム構築にあたりこのような利益相反取引が生じる可能性がある場合は留意が必要です。

 

「上場会社の非上場化(MBO等)の株価算定に係る適時開示規則の改正」

2013-09-21

2013年7月8日に公表された適時開示規則の改正により、MBO(公開買付者が対象会社の役員である場合の公開買付け)を行う場合や、支配株主等が買付者となる公開買付けを行う場合の開示内容が拡充されました(2013年10月1日から適用)。

従前から、上場会社が上場廃止を伴う公開買付けを受ける場合や支配株主から公開買付けを受ける際等には、上場会社は意見表明に際して第三者算定機関からの株価算定書を取得して証券取引所に提出することが求められていましたが、その際に算定内容を開示するにあたっては、採用した算定方法と算定結果、その方式を採用した理由を記載すれば足りていました。

しかし、本改正後は、類似上場会社比較法であれば選択した類似上場会社とその選定理由や倍率として採用した財務指標等、DCF法であれば、前提とした財務予想の具体的な数字や割引率、残存価値の算定方法と採用した数値等の具体的な算定方法を開示することが求められることとなります。

これらはこれまで、少なくとも日本では、一般に開示されることがほとんどなかった情報です。

「(3)算定に関する事項 ②算定の概要」に係る開示・記載上の注意事項は、以下のように改正されました。

3.当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由(3)算定に関する事項②算定の概要

・  MBO等に関して意見表明を行う場合には、算定の重要な前提条件として、市場株価法、類似会社比較法及びディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法については、以下の内容を含めて記載する。その他の算定手法については以下の内容に準じて重要な前提条件を記載する。

①  市場株価法

・算定基準日、計算対象期間及び算定基準日が算定書作成日当日又はその前営業日でない場合には、当該日を基準日とした理由
・計算方法(終値単純平均か加重平均かの別)
・その他特殊な前提条件がある場合には、その内容

②  類似会社比較法

・比較対象として選択した類似会社の名称及び当該会社を選択した理由
・マルチプルとして用いた指標(EV/EBITDA、PER、PBRなど)
・その他特殊な前提条件がある場合には、その内容

③  ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法

・算定の前提とした財務予測(各事業年度における売上高、営業利益、EBITDA及びフリー・キャッシュ・フロー)の具体的な数値
※  上場維持を前提とする場合を除く。
・算定の前提とした財務予測の出所
・算定の前提とした財務予測が当該取引の実施を前提とするものか否か
・算定の前提とした財務予測で大幅な増減益を見込んでいるときは、当該増減益の要因


※上場維持を前提とする場合は、算定の前提とした財務予測で大幅な増減益を見込んでいるときはその概要(計数を含む。)及び増減益の要因を記載し、算定の前提とした財務予測で大幅な増減益を見込んでいないときはその旨を記載する。

※「大幅な増減益」に該当するかどうかについては、各当事会社の当該公開買付け実施後5事業年度のいずれかにおいて、各々の前事業年度と比較して、利益の増加又は減少見込額が30%未満であるか否を目安とする。

・割引率の具体的な数値(レンジ可)
・継続価値の算定手法及び算定に用いたパラメータの具体的な数値(レンジ可)
・その他特殊な前提条件がある場合には、その内容

繰越欠損金を有する会社をM&Aで買収した場合の効果

2013-09-16

以前は、繰越欠損金のある会社をM&Aで買収して節税対策を行うという手法が盛んに行われていました。これは、繰越欠損金を有する企業をM&A買収し、その会社に黒字の事業を移すことで課税所得の圧縮を図ろうとする租税回避スキームでした。

しかし、現在はこのような目的のM&Aを実行することが難しくなっています

以下に説明する規制により、この租税回避スキームがかなり制限されておりますので注意が必要です(法人税法第57条の2)。

繰越欠損金が使用できなくなる要件

繰越欠損金の使用が制限されるのは、特定の株主によって50%超の株式を直接・間接に保有されている会社です。

繰越欠損金を有する法人(以下、「買収された会社」といいます。)において、特定支配関係(50%超の持株関係、以下、「買収」といいます。)が生じた後5年以内に、以下のいずれかに該当する場合は、該当事業年度以降において、それ以前に生じた欠損金を繰越すことができません。

1. 買収された会社が、買収以前において事業を営んでいない場合において、買収以後に事業を開始すること

つまり、休眠会社をM&Aで買収して新たに事業を開始させても、休眠会社の繰越欠損金は使えないということです。

2. 買収された会社が、買収の直前において営む事業のすべてを、買収後に廃止し(または廃止することが見込まれている場合)、旧事業の買収直前における事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入または出資を受け入れること

つまり、M&Aで買収された会社の事業を廃止させ、廃止した事業規模の5倍を超える多額の資金を注入した場合は、従来の事業で発生した繰越欠損金は使えないということです。

3. 買収するほうの会社が、欠損等法人に対する債権を取得している場合において、買収した会社が旧事業の買収以前における事業規模のおおむね5倍を超える資金借入等を行うこと

つまり、M&Aで買収された会社に対する債権を保有しつつ、事業規模の5倍を超える多額の資金を借り入れをさせる場合は、従来の事業で発生した繰越欠損金は使えないということです。

4. 上記1、2、3のいずれかに該当する場合において、買収された会社が自己を被合併法人(消滅会社)とする「適格合併」を行い、または買収された会社の残余財産が確定すること

つまり、合併によって消滅する場合もアウトということです。

5. 買収に基因して、買収される直前の役員のすべてが退任し、かつ、買収の直前に使用人(旧使用人)の総数の20%以上の者が使用人でなくなり、旧使用人が従事しない事業の事業規模が、旧事業の買収直前における事業規模のおおむね5倍を超えること

つまり、従来の事業(M&A前の事業)を継続したとしても、M&Aの後に旧役員の退任、従業員の20%以上の退職・配置転換が行われ、かつ従来の事業の5倍を超える新規事業が行われるようになった場合は、従来の事業による繰越欠損金は使えないということです。

それではどうやって節税できるのか?

逆に言えば、特定の株主によって50%超の株式を直接・間接に保有される場合ではないこと、もしくは従来の事業をほぼ同じ状態で継続するのであれば、従来のように繰越欠損金を利用することは可能です。そのような場合であれば、繰越欠損金を目的とするM&Aであっても実行可能ということでしょう。

繰越欠損金のある会社をM&Aで買収する場合は、その後の状況によって繰越欠損金が利用できるかどうかが変わってくるので、注意する必要があります。繰越欠損金の利用を目的とするM&Aを実行する場合、M&Aと組織再編税制の専門知識が必要となりますので、必ず事業承継に詳しい税理士へ相談するようにしてください。

M&Aにおける「ビジネス・デュー・ディリジェンス」

2013-08-16

M&Aにおけるビジネス・デュー・ディリジェンスの目的

M&Aの買収案件が持ち込まれた段階で最初に着手する作業の一つがビジネス・デュー・ディリジェンスです。M&A担当者が取締役会へ提出する資料を作成するために公認会計士へ依頼するケースが多いようです。今回は、事業承継コンサルティング株式会社の公認会計士が実施するビジネス・デュー・ディリジェンスの目的を説明します。

 (1)買収リスクを検出すること

通常、企業が対外的に開示している情報は限られており、特に非上場会社の場合、開示情報はほとんどないでしょう。それゆえ、買い手側としては、粉飾決算がないか、想定するイメージと対象会社の実態と異なっていないかチェックすることが必要となります。例えば、対象会社のビジネスモデルの収益性・成長性を今後も維持することができるか、対象会社の重要な経営資源が実在しているかなどを確認します。

 (2)事業価値源泉を把握すること

M&Aの価値評価で重要なことは、対象会社の中で何が利益を生み出しているのか、すなわち事業価値源泉を把握することによって、買収後の企業価値向上の機会を見つけておくことです。

M&Aが失敗に終わるケースは、「買収価格」よりも「買収後の企業価値」を高めることができない場合です。例えば、買収後の経営統合によってどれくらいの相乗効果が見込まれるのか、不採算事業からの撤退コストがどれくらいかかるのか、買収によって流出する顧客はどれくらいあるのかなど、売り手の経営者の意見も聞きながら、定量化していくことが重要です。すなわち、M&Aによるシナジー効果を定量化して買収価格に反映させることです。

 (3)事業計画を修正すること

M&Aにおいて最も頻繁に使われる評価方法がDCF法です。DCF法によって評価される事業価値は、「将来キャッシュ・フローの割引現在価値」です。それゆえ、売り手が今後どのような事業計画を立案し、どの程度の利益、キャッシュ・フローを創出するかを見極めることが重要になるのです。

そこで、売り手が作成し提出してきた事業計画の背景、根拠や考え方を詳細にヒアリングし、計画中の売上高や利益の妥当性及び実現可能性を検討します。その結果を基にして、買い手側から見て実現可能性が高いと思われる水準へ事業計画を修正していきます。

 M&Aにおけるビジネス・デュー・ディリジェンスの手順

 (1)内部経営環境の把握
経営者に対するヒアリングによって、事業内容、ビジネスモデル、組織構造、ガバナンス体制を把握します。


 (2)外部経営環境の把握
公開情報等を活用して市場規模や伸び率、市場シェアを把握し、同業他社との競合関係を理解します。


 (3)SWOT分析、ファイブ・フォース分析
対象会社の強み・弱みをヒアリングして、経営環境の状況を整理したSWOT分析を実施します。また、仕入先との関係、得意先との関係などをヒアリングし、ファイブ・フォース分析によって競争環境を明確化します。


 (4)収益性の分析
損益計算書をブレイクダウンして、事業別損益から製品・商品・サービス毎の売上高、売上原価、粗利益まで、詳細な収益性分析を行います。また、バリューチェーン分析(仕入→製造→販売の商流を図解すること。)を行うことによって、事業価値源泉の所在を明らかにします。


 (5)事業計画の妥当性検証
計画数値が作られたロジックをヒアリングします。そこで採用されたバリュー・ドライバー(KPI)を特定し、その妥当性を検証することによって、実現可能性の高い事業計画に修正していきます。その際、楽観的シナリオ、現実的シナリオ、悲観的シナリオの3パターンの事業計画を策定します。


事業承継コンサルティング株式会社の提案書サンプル

ビジネス,デュー・ディリジェンス,M&A

M&Aビジネス・デュー・ディリジェンス

M&Aに伴い同族株主間が株式を譲渡する場合の株価

2013-06-30

M&Aの実行に伴って、複数のグループ会社の組織再編を行うケースが多く見られます。株式譲渡や事業譲渡もあれば、非適格の組織再編のケースもあります。いずれにせよ、同族株主の間で株式を譲渡する場合、その株価が問題となります。

第三者間で株式譲渡を行う場合は、「株式の時価」が取引価額となり、売主と買主の交渉により決定した金額が取引価額となります。そして、この場合の非上場株式の時価は、当事者間で決定した取引価額となります。

しかし、非上場株式には取引相場がなく客観的な時価が把握できないことに加えて、同族株主間ではそもそも価格交渉できないという問題点があります。このため、非上場株式の売買においては、相続税、法人税および所得税の計算上用いられる評価方法に基づいた株式評価を行なって取引価額を決定することが一般的です。

当事者が個人の場合、相続税評価額によって株式を評価します。

これに対して、当事者が「法人」の場合、法人税法における非上場株式の評価は、基本的には相続税評価を準用しながら、それに次の3つの条件を加味して株式評価を行います。

1. 株式を取得する法人および株式を売却する個人がいずれも「中心的な同族株主」に該当する場合は、会社規模は小会社(折衷割合0.5)として評価すること

2. 純資産価額方式による評価計算においては、会社所有の土地や上場株式の評価を時価によること

3. 純資産価額方式による評価計算においては、評価差額に対する法人税相当額の控除をしないこと

実務上は中心的な同族株主に該当するか否かに関係なくL=0.5、すなわち、類似業種比準価額×0.5 + 純資産価額×0.5 で計算します。

親族外事業承継の方法としてM&Aを活用する事例が増えていますが、M&A株価と税務上の株価は異なりますので、自社株評価を行う際にはその点を注意しなければなりません。

「高収益部門の後継者への移転方法~会社分割と事業譲渡」

2013-06-30

不動産相続と事業承継

業績好調の会社の株式をオーナー経営者が保有していると、その株式の評価額はどんどん上昇していくことになります。つまり、後継者の相続税支払い予想額は年々増えていくということです。高い利益水準に対して法人税を支払った上に、相続税負担も大きくなる状況ですから、株式承継対策が必要となります。

株式承継対策として、高収益部門を後継者に移転することが効果的です。すなわち、高収益部門を分社化して新会社を設立し、その経営を後継者に任せてしまいます。もちろん、後継者が未熟だというのであれば、オーナーが新会社の経営に関与しても構いません。ここでのポイントは、将来の収益力を先に後継者へ移転して、株価の上昇とそれに伴う相続税負担の増加を抑えることなのです。

後継者が自ら設立した新会社へ高収益部門を移転することになりますが、その際の組織再編スキームとして、事業譲渡会社分割(吸収分割)があります。この2つのスキームを比較してみましょう。

会社分割とは?

会社分割には吸収分割と新設分割の2つがあります。

吸収分割とは、分割法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割承継法人に承継させることをいい、新設法人とは、一又はニ以上の分割法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継することをいいます。会社分割を行う場合には、原則として、株主総会の特別決議による承認が必要となります。

分割法人は分割承継法人に事業を移転し、その対価として株式又は金銭その他の財産を取得することになります。ここにいう財産の種類は、典型的には、分割承継法人の株式、その子会社あるいは関連会社の株式又は社債などの有価証券が考えられるほか、現金での対価の交付も可能です。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業活動の全部又は重要な一部を譲受人に引継がせ、譲渡会社がその限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいいます。

債権債務の承継における違い

会社分割では、分割法人の権利義務は包括的に分割承継法人に承継されるため、契約上の地位は相手方の同意なしに承継されます。

これに対して、事業譲渡では、譲渡会社において個別に契約の相手方の同意を得る必要があります。例えば、売掛金の承継については債権譲渡の手続きが、買掛金の承継については債権者の承諾が必要となります。それゆえ、相手方が多数存在する場合には、かなりの時間と労力が必要となる場合があります。

民法に規定する債権譲渡の手続きとしては、譲渡会社から債務者に対し、債権譲渡の通知をするか、または、債務者が債権譲渡について承諾をする必要があります。この債権譲渡通知、承諾は、第三者への対抗要件として、確定日付ある証書によって行わなければならないことになっています。

債権者保護手続きにおける違い

会社分割では、分割法人の債権者のうち、会社分割実行後の分割法人に対して、債務の履行を請求できなくなる者は、意義を述べることができます。分割法人は、債権者が一定期間内(最低1ヶ月)に意義を述べることができることを官報で公告するとともに、各債権者に個別に催告しなければなりません(官報公告に加えて、日刊新聞紙への掲載又はホームページでの電子公告を行った場合は、個別催告が不要。)。

これに対して、事業譲渡では上述したように債権譲渡の手続きが必要となりますので、会社法に規定する債権者保護手続きは必要ありません。

労働者保護手続きにおける違い

会社分割では、個々に従業員の同意を得る必要はありませんが、労働承継法の適用によって、労働者との協議、労働者への事前通知(株主総会の2週間前まで)が必要となるとともに、労働者の異議申出が認められています。

これに対して、事業譲渡では、従業員の個別の同意が必要となり、労働承継法の適用はありません。従業員の意向を把握した上で、譲渡会社から譲受会社への承継方法(転籍、出向)、処遇、退職金の取扱いを決めることになります。

法人税、住民税及び事業税の取扱い

事業譲渡の場合、譲渡会社から譲受会社に譲渡した資産及び負債の譲渡価額と帳簿価額との差額について譲渡損益が発生します。すなわち、譲渡損益は法人税、住民税及び事業税の課税対象となります。

一方、譲受会社は資産及び負債を時価で取得するため、その対価が時価純資産価額を超える場合には「資産調整勘定」を認識することができ、資産調整勘定の償却を通じて、将来の課税所得を圧縮することができます。

これに対して、会社分割を行う場合、税制適格要件の判定を行わなければなりません。すなわち、適格分割に該当するか非適格分割に該当するかによって税務上の取扱いが大きく異なってきます。 適格分割に該当した場合には、分割承継法人は資産及び負債を「簿価」で受け入れることになりますが、非適格分割に該当した場合には、分割承継法人は資産及び負債を「時価」で受け入れることになります。

事業承継対策として会社分割を行う場合は、事業部の新設分割を行なって新会社の株式を後継者に譲渡する方法、後継者が設立する新会社に対して吸収分割を行なって対価として現金を支払う方法が考えられますが、いずれの方法を採用しても、ほとんどのケースにおいて非適格分割に該当することになります。なぜなら、税制適格要件を満たすためには、グループ内の適格分割か、共同事業を営むための適格分割に該当する必要がありますが、事業承継対策として会社分割を行う場合はいずれのケースにも該当しないからです。

会社分割が非適格分割に該当する場合には、分割法人の資産及び負債が「時価」で分割承継法人へ移転することになります。それゆえ、分割法人から分割承継法人に移転した資産及び負債の時価と帳簿価額との差額について譲渡損益が発生します。すなわち、譲渡損益は法人税、住民税及び事業税の課税対象となります。

一方、分割承継法人は資産及び負債を「時価」で取得するため、その対価が時価純資産価額を超える場合には「資産調整勘定」を認識することができ、資産調整勘定の償却を通じて、将来の課税所得を圧縮することができます。

消費税の取扱い

事業譲渡では、資産及び負債の移転に伴って消費税等の負担が発生します。これに対して、会社分割は課税対象外取引とされているため、消費税等の負担は発生しません。

借地権の問題

建物を後継者の会社へ移転し、土地を賃貸すると「借地権」の問題が生じます。もちろん、適正な地代を支払っていれば、このような問題は生じません。適正な地代とは、更地としての土地の時価又は公示価格もしくは相続税評価額の6%とされています。自社株の評価の際には、この借地権が法人の財産となりますが、土地の値上がり部分はオーナーの個人財産に加算されることがなくなります。法人の株主を後継者にしておくことが相続税対策として効果的です。

後継者,事業譲渡,相続対策

後継者への事業譲渡が相続対策として有効


まとめ

主要な相違点を比較しますと以下の通りとなります。
会社分割 事業譲渡
意思決定機関 (分割法人)株主総会の特別決議 (譲渡会社)株主総会の特別決議
(譲受会社)他社の営業全部の譲受けを行う場合は株主総会の特別決議が必要
債権債務の承継 相手方の同意は不要 相手方の同意が必要
債権者保護手続き 官報公告が必要(最低1ヶ月) 不要(個別同意が必要であるため)
労働者保護手続き 労働承継法の適用がある 労働承継法の適用はなく、個別に従業員の同意を得る
税務上の取扱い
(非適格再編の場合)
(分割法人)損益を認識
(分割承継法人)時価で受入れ、資産調整勘定を認識
(譲渡会社)損益を認識
(譲受会社)時価で受入れ、資産調整勘定を認識
商業登記 必要。分割法人は僅少だが、分割承継法人では増加資本金の1,000分の7を乗じた金額(ただし、ほとんどを資本準備金とすれば僅少) 不要
不動産取得税 発生するが、非課税要件を満たす場合には発生しない 発生する

M&Aで会社売却した後、多額の金融資産をどうするか?

2013-06-24

M&Aで会社を売却したオーナー経営者は、その売却代金として多額の現金を受け取ります。受け取った現金は預金として所有してもよいですが、一般的には金融機関を通じて金融資産を購入し運用することになります。つまり、M&Aを通じて、企業オーナーは金融資産家へ転身するということです。

金融資産家の相続対策は、「不動産投資」と「贈与」です。

まず、相続・贈与における相続税評価を整理してみましょう。保有する財産のポートフォリオを最適化という観点からは、相続税評価の低い資産に組み替えることによって税負担を軽減することができます。

現金・預貯金 額面そのまま
土地(自用地)
(更地、自宅の敷地)
路線価×調整率×地積
(路線価は公示価格の約80%
 土地(貸家建付地)
(アパート・マンションの敷地)
自用地の評価×(1-借地権割合×30%
(借地権割合は60%~70%の地域が多い) 
 建物(自宅) 固定資産税評価額
(固定資産税評価額は建築価格の50%~70%程度) 
 建物(貸家)  固定資産税評価額×(1-30%

相続対策として、銀行から資金を借入れてアパートやマンションを建てることが効果的です。以下、簡単な数値例で説明いたします。


例えば、個人で1億5千万の借入れをして、自己資金1億円と合わせて2.5億円のアパート(建物1億円、土地1億5千万円)を取得したとしましょう。

この場合、アパート建物は上記の表の通り「貸家」ですから、相続税評価は、固定資産税評価額×(1-30%)となります。すなわち、建築価格1億円×50%×(1-30%)=約3,500万円です。時価の35%程度まで評価を下げることができました。

また、アパート土地は「貸家建付地」ですから、相続税評価は、自用地の評価×(1-借地権割合×30%)となります。すなわち、公示価格(=時価)1億5千万円×80%×(1-60%×30%)=9,600万円です。時価の64%程度まで評価を下げることができました。

そうしますと、純資産価額は、3,500万円+9,600万円-1億5千万円=ゼロ(マイナスの場合はゼロ)となります。
 借金してアパートを建てる!
 科目 時価
(取得価額) 
相続税評価   
 アパート建物  1億円   3,500万円  貸家 
 アパート土地  1億5千万円   9,600万円   貸家建付地
 銀行借入金  ▲1億5千万円  ▲1億5千万円   
 純資産価額  1億円   ゼロ   節税に成功

このように、不動産と借入金の評価方法は相違しています。すなわち、アパート・マンション建築については、時価と相続税評価にズレ(時価>相続税評価)があるのに対して、借入金は時価と相続税評価が一致(時価=相続税評価)しています。そこで、このズレを利用して相続税評価を引き下げるのです。


近年、M&Aした後の資産家がタワーマンションを購入する事例が増えています。事業承継対策が終わったら、その次に相続対策が待っていることを忘れてはなりません。

「会計事務所の事業承継とM&A」

2013-06-19

不動産相続と事業承継

税理士の高齢化が急速に進み、会計事務所の事業承継問題がクローズアップされてきている。従来は、子供(親族)に税理士資格を取らせて後継者とすることが事業承継の基本とされており、子供が税理士資格を取得できなかった場合には、実質的に廃業という選択肢が採られてきた。

ここでは、会計事務所の廃業を避けるため、事業承継の新たな選択肢として近年増えてきている「会計事務所のM&A」を採り上げる。

税理士の世代交代の時期の到来

日本税理士連合会の税理士実態調査によれば、「60歳以上」の税理士の割合は5割を超え、高齢化がピークに達している。つまり、税理士業界では、税理士の2人に1人が引退の時期に近づいた高齢者なのである。また、税理士業界では、開業税理士が全体の8割を占めているため、引退する税理士の増加に伴い、残された税理士業務をどのようにして次世代へ引継ぐか、税理士の事業承継問題が深刻化してきているといえる。

表舞台に出てこなかった会計事務所のM&A

大手監査法人や大手税理士法人(ビッグ4)は、その業界再編に伴い、大胆なM&Aが進められてきたことは周知の通りである。しかし、これは会計事務所の規模拡大を目的とした戦略的なM&Aであり、事業承継問題に起因するM&Aではない。

これに対して、事業承継問題に起因する個人事務所のM&Aは、あまり一般には知られていない。これは、個人事務所のM&Aは、その取引事例が公表されずに秘密裡に行われてきたからである。しかし、表舞台には出てこなかったものの、個人事務所のM&Aの案件数は、ここ数年の間に急速に増えてきているのである。


これまでの会計事務所の親族外承継

これまで、会計事務所の事業承継は、子供(親族)に税理士資格を取得させて事業承継するケースがほとんどであり、親族内承継が事業承継の基本であった。
また、子供が後継者とならない場合は、所長の引退とともに廃業し、その業務(顧客関係)を無償で他の税理士へ引継ぐこという親族外承継が業界慣行であった。

親族外承継を行う際、後継者として第一に考えられたのは、最も信頼できる所内の職員である。既存顧客のことを理解している職員に税理士資格を取得させ、税理士業務に引継がせてやったのである。
また、同じ税理士会支部に所属する他の税理士へ承継されることもあった。これは、支部の会員同士でお互いに顧客を融通し合うことによって共存共栄を図るという文化がその背景にあると考えられる。

いずれにせよ、つまり、会計事務所の事業を“有償”で売却するという手段(M&A)が用いられるケースはほとんどなく、親族内承継に失敗した税理士は、長年の間に蓄積した貴重な業務(顧客関係)を無償で手放していたのである。


そうはいっても、ごく稀に有償で会計事務所が売却されるケースも存在していたが、事業会社のM&Aとは異なり、会計事務所の事業価値の相場が形成されていなかったため、取引価格をどのように評価してよいかわからないという問題があった。しかし、現役時代を通じて十分に稼いできた税理士は、もはや引退した後にお金が欲しいという気持ちがあまりなく、買い手となる税理士の希望する比較的低い取引価格に応じるケースが多かったようである。


以上のように、これまでは会計事務所のM&Aが実施されるケースは少なく、親族外承継の有効な手法となることは一般に知られていなかったのである。


会計事務所の事業価値源泉は顧客関係

会計事務所の主たる収益源は、税務顧問(記帳代行、決算申告)である。顧問契約を締結すれば、毎期継続的に、極端に言えば半永久的に顧問料収入が入ってくる。それゆえ、この顧問契約を結んだ顧客関係こそが、会計事務所の事業価値源泉だといえる。


しかし、税務顧問という業務の価値は、以前と比べて小さくなってきているのである。会計システムの導入支援が大流行した昔とは異なり、現在ではどこの会計事務所が提供してもほとんど同じサービス内容となってしまったのである。つまり、会計事務所のサービスが競合他社と同質化してしまい、差別化できなきなくなってしまい、その結果、顧問料収入の収益性が低下しているのが現状ある。


この点、資産税や経営コンサルティング業務などの周辺業務で付加価値を出さない限り、税務顧問だけでは会計事務所の競争力を維持、向上させることは困難だという意見も多い。新しいサービスを開発しなければ事業価値は向上しないという意見である。


しかし、このように同質化したサービスしか提供されていなくとも、会計事務所の顧客は、他の会計事務所に切り替える煩雑さが阻害要因になり、他の税理士に契約を切替えようとはしない。税理士を切り替えようとすれば、一から事業内容や経理方法を説明しなければならず、また、税理士との個人的な信頼関係の構築に時間と労力がかかり、煩雑だからである。

ただし、業績悪化に伴い、顧問料の引下げを実施するケースが著しく増えてきている。また、新たに契約する顧客の顧問料は、年々下がる一方である。

その一方で、会計事務所の立場においては、恵まれた状況がある。例えば、多少の税制改正があっても、提供する業務や仕事内容が大幅に変わるようなことはない。会計事務所が業務の品質向上を図るために、自ら業務革新に取り組む必要もないし、安い給料で職員を雇うことができる雇用環境のもと、人件費などコスト削減に取り組む必要性にも乏しい。


以上のように、市場競争が厳しくなったきてはいるものの、一度、顧客との顧問契約が締結されてしまえば、会計事務所は、長期安定的に顧問料収入を生み出す事業である。もちろん、その事業価値は昔ほど大きいものではない。しかし、事業価値源泉(顧客関係)さえ毀損させなければ、税理士の事業として十分に成り立つものなのである。一般の事業会社が、デフレ経済、円高、国際競争という厳しい経営環境の中で戦っている状況とは雲泥の違いである。


そうは言っても、既存顧客に対して何もしないでよいというわけではない。一般的に、新規顧客の獲得方法は、既存顧客や提携先からの紹介であるといわれる。顧客を増やすためには、所長税理士が幅広い人脈を作り、顧客の紹介を受ける機会を増やす営業活動によって行われることになる。

また、既存顧客との関係性維持のためには、所長税理士の人間性など属人的要素が重要になる。例えば、ゴルフや飲み会などによる交際関係が、長期的な関係性維持のための重要な手段となる。

このように、属人的な営業方法で顧客関係を維持できること、言い換えれば、業務の品質向上や価格競争で営業を行う必要がないことが、会計事務所が置かれた経営環境であるといえよう。


とすれば、顧客関係を維持するという重要な役割を果たす所長税理士が引退するということは、既存顧客を失い、会計事務所の事業価値を一気に毀損させる危機的状況を意味する。


このことから、会計事務所のM&Aを考える場合、売り手の所長税理士によって構築された既存の顧客関係をどのように買い手に承継するか、これが会計事務所の事業価値を承継する際に最も重要な課題となる。

M&A講座3本を公開しました!

2013-04-07

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一橋大学大学院商学研究科修士課程修了(経営学及び会計学専攻)
税理士、公認会計士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)
日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員

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