事業承継税制(非上場株式の納税猶予制度)の節税効果

2016-01-03

1. 事業承継税制の必要性

事業承継は、会社の社長を交代するだけよいというものではない。会社の社長は株主総会で選任される取締役から選ばれることから、株主総会を支配するに足る株式を所有しなければならない。それゆえ、先代経営者が所有する株式を後継者に引き渡さなければならない。通常であれば、先代経営者は議決権株式の大部分を所有しているはずだから、後継者に引き渡すべき株式はかなり多数の株式となる。
株式を移転する際、債務超過で株価がゼロの会社ならば全く問題はない。業績が良好で黒字が続き、内部留保の厚い優良企業や、土地に大きな含み益がある企業の場合、株式の評価額が高くなることから、株式の引き渡しに伴う税負担の大きさが問題となる。
この点、会社を個人と一体化させている中小企業経営者の場合、「自分の息子だから、カネはいらないよ。株式はタダで渡してやるよ。」とか「株価は額面50円でよいのだろう?」と考える方が多い。しかし、優良企業の株式を息子にタダで引き渡すようなことをすれば、税務署は黙っていない。贈与税の脱税になるからである。
一般的に、優良企業の株価は年を追う毎に上昇する。利益が出ている限り上昇が止まらないと考えてよいだろう。近年のように、社長の高齢化、事業承継の遅れによって、株式を後継者に引き渡すタイミングが遅れ、その結果、予想外に株価が高くなり、その税負担の大きさに戸惑うケースが増えてきている。
すなわち、事業承継の際には後継者に相続税又は贈与税が課されるが、資金力の乏しい中小企業経営者にとってはその負担が重すぎるのである。そのため、多くのケースでは、株式を親族内で分散して承継することで税負担を軽くしようとする。しかしながら、こうした対応は、会社の支配力を分散させ、経営の安定性を損ねることになる。
そこで、事業承継に伴う税負担を軽減させ、事業承継を円滑に実行させる措置として導入されたのが事業承継税制である。

2. 事業承継税制の概要

事業承継税制とは、中小企業経営承継円滑化法に基づく非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度のことをいう。これは、中小企業者の後継者が、先代経営者から会社の株式を承継する際に贈与税100%、相続税80%を軽減する特例制度であり、平成20年に導入された。
後継者が、経済産業大臣の認定を受けた株式を先代経営者から相続又は贈与により取得した場合には、発行済議決権株式総数の2/3までの部分に対応する相続税又は贈与税の納税を猶予される。この制度の適用によって、安定的な会社支配権を確保できる2/3の議決権株式を、税負担をほとんど伴わずして、後継者1人が承継することが可能となる。
ただし、後継者の要件として、後継者とその親族などとで議決権総数の過半数を保有し、かつ、これらの者の中で筆頭株主であることなどが課せられており、事業承継税制の対象となる後継者は事実上1人に限定されている。
また、この特例制度の適用を受けるためには、相続税・贈与税の申告期限から5年間は以下のような要件を満たして事業を継続することが必要である。
  ① 雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
  ② 後継者が代表を継続すること
  ③ 贈与税の場合、先代経営者が代表者から退任すること
  ④ 対象株式を継続して保有すること
  ⑤ 上場会社、資産管理会社、風俗関連事業を行う会社に該当しないこと等
これらの要件を満たせなかった場合は、猶予されていた税金の全額納付となる。

3.事業承継税制の特長

事業承継税制の特長を一言で表現するとすれば、驚異的な節税効果である。大まかにイメージを表現すると以下の図のようになる。67%の株式の80%軽減ということであるから、概ね5割を超える大幅な節税効果である。

事業承継・納税猶予

事業承継の支援を専門とする筆者は、年間50社以上の中小企業経営者に対して税負担の軽減に効果的なアドバイスを提供しており、生前贈与、民事信託、従業員持株会、投資育成会社、株価引下げ対策など様々な手法を駆使して承継スキームを立案する。その手法はケースバイケースであり、数えきれないバリエーションがある。しかし、この事業承継税制ほど節税効果の大きな手法は他には存在しない。その節税効果は絶大なものであるから、筆者個人の見解としては、これを活用したほうがよいと断言する。

4. 事業承継税制の問題点

①事業承継税制の存在が知られていない。

このように大きなメリットを持つ制度であるにもかかわらず、この制度は、中小企業経営者に知られていない。東京商工会議所による中小企業経営者に対するアンケート調査(平成27年1月)によれば、事業承継税制について「知っている」とする回答は23.5%であるのに対して、「知らない」とする回答は39.1%であった。事業承継税制は世間に普及していないのである。

②事業承継税制の適用申請に会社の顧問税理士が協力しない。

運良くこの制度を知ることになった中小企業経営者は、会社の顧問税理士に相談するはずである。しかし、平均年齢60歳を超える普通の税理士は、事業承継税制に非協力的な姿勢を見えるケースが多い。筆者は、数少ない協力的な税理士の一人であるが、筆者のもとに適用申請を依頼されるお客様のほとんどは、「顧問税理士が支援してくれない。」という理由からである。
上記アンケート調査によれば、事業承継税制の問題点として、「要件が多く制度がわかりにくい。」「提出書類が煩雑でわかりにくい。」の2点が採り上げられている。筆者のように実績を積んで申請手続きに慣れてしまえば問題ないが、適用要件が細かく規定されており、それを充足できなかった場合のダメージが大きいため、申請した経験のない税理士が最初の1件を手掛ける際には躊躇することになるだろう(大手会計システムTKCから適用要件の充足を自動判定してくれるソフトウェアが販売されているほどである。)。また、60歳を超えた高齢のベテラン税理士に、複雑かつ難解な税制を一から勉強させることは酷であろう。
それ以上に問題となるのは、提出書類の数が多く、それらを集めるも一苦労であることから、税理士の立場からすれば、その労力に見合う報酬を取ることができるかどうかという点である。筆者の設定している30万円~50万円(規模に応じて)という報酬でも原価割れして赤字になることもあり、儲かる商売ではない。既存の顧問先からは、「これくらいの手続きは、月額顧問料の範囲内で当然にサービスしてくれるだろう。」などと無償サービスを要求されることもある。税理士も商売であるから、赤字になるような仕事はしたくない。

③事業承継税制を否定する専門家も多い

一般向けに開催される事業承継のセミナーで、制度内容に誤解を招くような説明を行う専門家が多い。一番多いのは、制度を全く理解できていない専門家が、単純に制度が難しくて手続きに手間が掛かるという理由だけで、「使いづらい制度だから止めておきましょう。」と一蹴してしまうケースである。これは論外だろう。
制度を理解している専門家であっても、「このデフレ低成長時代にあって、事業縮小や従業員リストラができないという制約は厳しすぎる。」と言う専門家、「M&Aという重要な経営戦略が封じられる制度は好ましくない。」と言う専門家がいる。この点について、筆者の経験上、そもそもこの制度を適用する会社は、好業績の優良なファミリー企業であるから、事業縮小や会社売却を考える必要性は全くないと思われる。
微妙に納得してしまうために厄介なのは、「この制度は一度適用してしまうと、未来永劫、世代交代のたびに適用申請を続けなければならず、止めようと思ったときには、猶予された『多額の税金』に利息まで付けて納税しなければなりませんよ。」と、納税時の税負担の重さを強調する専門家である。この点については、大きな誤解がある。納税猶予の対象となる株式は、次世代に承継される度に評価し直されるため、最初に適用されたときの高い株価が付きまとうわけではない。株価が上昇を続ける場合は制度の適用を続けることになるが、株価が下落したのであれば、事業承継税制を止めたとしても納税すべき税額は小さくなっており、何も恐れることはない。

事業承継税制を適用したいと思っても、今の顧問税理士が必ず手伝ってくれるわけではない。相続税申告だけ相続専門の税理士に依頼することがあるように、事業承継税制の申請だけは、事業承継専門の税理士に依頼すべきであろう。

2月21日(日)事業承継スキルアップ講座

2015-12-31

2月21日(日)事業承継スキルアップ講座が開催されます。
事業承継の講義だけでなく、プロの経営コンサルタントとして独立開業するための方法論も伝授します。事業承継支援の実践的教材を用意し、中小企業診断士業界における最強の講師陣が登壇しますので、ぜひご受講ください。

【講師】
小黒光司先生(東京都中小企業診断士協会・会長)
池田安弘先生(東京都中小企業診断士協会・副会長)
八木田鶴子先生(東京都中小企業診断士協会中央支部・支部長)
村上章先生(台東区中小企業診断士協会・会長)

■ 事業承継支援スキルアップ講座
10:00-12:30
受講料 12,000円
・事業承継支援の実務で顧客をどのように指導するのか?
・事業承継の顧客を獲得するために必要な営業活動とは?
・事業承継案件で稼ぐには?
・株式評価の仕事への対応方法は?
・グループ・カウンセリング(講師による個別指導)

■ 年収1千万円を稼ぐ独立開業コンサルタント養成講座
14:00-16:30
受講料 12,000円
・プロの経営コンサルタントとして独立開業するための心構えと準備
・講師が実体験を語る!年収1千万円を稼ぐまでのロードマップ
・公的機関の下請けから脱却し、経営コンサルタントとして顧問契約を取る方法
・グループ・カウンセリング(講師による個別指導)

お申し込みは、事業承継コンサルティング株式会社まで
【電話】03-3527-9033
【メール】tokyo@kishida-cpa.com
担当:神林(かんばやし)

事業承継

事業承継

事業承継の方向性が決まったときの経営承継の進め方

2015-12-08

子供が会社を承継する場合(親族内承継)

子供へ社長交代しますので、経営者として一人前になるよう、子供の後継者教育に着手します。一般的に、後継者の育成期間は5~10年程度かかるといわれています。関係者(取引先、従業員、金融機関など)の理解、会社内部でのジョブ・ローテーション、会社外部の後継者研修の受講など、後継者として会社を経営していくにあたっての知識・経験を蓄積していく必要があり、計画的に行っていく必要があります。事業承継計画を作らなければなりません。

事業承継計画は、現経営者だけで策定するのではなく、必ず現経営者と後継者が一緒に作成するようにしましょう。特に、経営理念・ブランド・ノウハウ・技術力などの目に見えにくい会社の強み(無形資産)について、現経営者と後継者でコミュニケーションをとりながら承継していく必要があります。

また、現経営者が所有している自社株式や事業用不動産などをどのように後継者へ承継(贈与)するか、後継者へ個人財産の大部分を承継した場合に後継者ではない他の親族への財産配分はどうするかといった財産承継の問題も伴います。

親族外の役員・従業員が承継する場合

昨今、親族内で事業承継ができないケースが増えてきています。子供以外の親族で後継者候補がいないかを検討し、いないようであれば会社内部の役員・従業員の中に後継者候補がいないかを検討します。ただ、従業員はもともと経営者になるつもりで会社に入社していないため、「会社を継ぐ覚悟」という点で、親族内承継よりもハードルが高い傾向にあります。

また、銀行に対する経営者保証の引継ぎ、現経営者の親族や取引先・従業員からの理解を得ること、自社株式を現経営者から買い取るための資金調達など、後継者である役員・従業員には大きな問題が伴います。

親族外の第三者へ売却する場合

事業承継の手段としてM&Aも有効です。会社内部の役員・従業員にも後継者候補がいないようでしたら、社外の第三者に後継者候補を探すことになります(会社売却、後継者候補を外部から招聘など)。この場合、事業の引継ぎ相手(後継者)をどのように見つけるかが最大の難関ですが、普段の取引先との付き合いの中で引継ぎ先を見つけること、同じ市場にいる競合他社を引継ぎ先とすることが考えられます。そのため、M&Aを専門とする公認会計士に相手探しを依頼することで、社外の後継者を見つけることになります。

【事業承継税制】贈与税の納税猶予制度から相続税の納税猶予制度への切り替え

2015-12-06

事業承継税制は、先代経営者から後継者への社長交代のタイミングで自社株式を贈与することを想定しています(相続の際に自社株式を相続人へ承継することは想定していません。)。つまり、先代経営者が贈与者で、後継者が受贈者です。

それゆえ、先代経営者が死亡する際に、どのように相続税の納税猶予制度へ意向するのかが、明確に説明されていません。事業承継税制に取り組む場合は、この点まで理解しておく必要があるでしょう。

(1)原則的な取扱い
先代経営者が死亡した場合、後継者が先代経営者から相続によって自社株式を取得したものとみなされることになります。ただし、自社株式の評価額は、相続時ではなく贈与時の価額によることになります。
この場合、先代経営者が死亡した日から6ヶ月以内に贈与税の「免除届出書」を税務署長に提出することによって、これまで猶予されていた贈与税は免除されます。
また、自社株式について相続税の納税猶予制度の適用を受ける場合には、相続開始日から8ヶ月以内に経済産業大臣に申請を行い、10ヶ月以内に相続税申告を行う必要があります。

事業承継税制

(2)事業継続期間の要件はどうなるか?
贈与税の納税猶予制度が適用されますと、以下のような事業継続期間(経営承継期間)の要件が課されます。
① 代表者であること
② 雇用の8割以上(平均)を維持すること
これに加えて、事業継続期間を終了後も続けて課せられる要件として、③ 株式を継続所有することもあります。
この点、相続税の納税猶予制度の適用を行いますと、また事業継続期間がゼロからスタートするのではないかという疑問が生じるはずです。
これに関する取扱いですが、相続税の納税猶予制度への切り替え時には、①代表者要件、②雇用維持要件は課されないものとなっています。ただし、③株式継続所有要件については事業継続期間に限られた要件ではないため、相続の発生後も継続して課せられることには留意してください。

(3)結局、事業承継税制は何が足枷になるのか?
このように①代表者要件、②雇用維持要件は、先代経営者から後継者へ自社株式が贈与されてから5年間だけ課せられる要件です。事業承継税制が、雇用維持を制度趣旨とするものであることから、当然に求められる要件だと言えましょう。一方、③株式継続所有要件は、後継者が次の後継者(先代から数えて3代目社長)へ事業承継する日まで課せられる要件です。つまり、後継者はM&Aで自社株式を第三者に売却することはできないという足枷が課せられます(第三者に対して贈与し、それに経営承継円滑化法を適用することができますが、それではM&Aで会社売却して現金を得ようとする目的は達せられません。)。M&Aできないこと、これが事業承継税制の足枷ということができそうです。

 

事業承継支援における中小企業診断士と投資育成会社との連携

2015-10-26

事業承継支援における中小企業診断士と投資育成会社との連携

中小企業経営者の事業承継を成功させるためには、社長という地位の「経営承継」と、自社株式という財産の「株式承継」の両面を同時に考える必要があります。そのため、経営承継の専門家である中小企業診断士は、積極的に自らお客様へ提案するとともに、株式承継の専門家である公認会計士との連携を行わなければなりません。

株式承継の手段としては、「中小企業経営承継円滑化法に基づく納税猶予制度」の適用が最も効果的です。
また、この制度を適用しない場合には、投資育成会社への増資が有効な手段となります。
中小企業診断士として、株式承継対策の必要性をお客様に提案し、他の専門家との差別化を図っていかなければなりません。

本セミナーでは、まず小黒会長から事業承継支援業務の社会的なニーズの大きさ、それに対する中小企業診断士の役割をわかりやすく解説します。次に、「事業承継における投資育成会社の活用法」というテーマで、具体的手法を、事例を交えて東京中小企業投資育成㈱の公認会計士からご講演いただきます。
さらに、事業承継税制(中小企業経営承継円滑化法に基づく納税猶予制度)の適用と、投資育成会社を併用する実践的な活用方法について、事業承継コンサルティング㈱の公認会計士から説明します。
中小企業診断士による事業承継支援業務の全体像を明らかにします。

中小企業診断士による事業承継支援は、東京都中小企業診断士協会の小黒会長が強力に後押しする取り組みであり、本セミナーは、事業承継支援に取り組もうとする中小企業診断士の方々にとって極めて有用な内容です。ぜひご参加ください。

【日 時】 2015年12月16日(水)13:30~16:30(受付開始13:00)
【会 場】 東京中小企業投資育成㈱ 大ホール
  (東京都渋谷区渋谷3-29-22)

【プログラム】
(1)「事業承継支援における中小企業診断士の役割」
講師:小黒光司(東京都中小企業診断士協会会長、中小企業診断士)
内容:事業承継支援に対する社会的なニーズの大きさ、それに対する中小企業診断士が果たすべき役割をご説明いただきます。

(2)「事業承継における投資育成会社の活用法」
講師:中野威人(東京中小企業投資育成㈱、公認会計士)
内容:経営権を確保しつつ事業承継を進める具体的手法を、事例を交えてご説明いただきます。

(3)「経営承継円滑化法に基づく納税猶予制度の活用法」
講師:岸田康雄(日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」専門研究委員、事業承継コンサルティング㈱、公認会計士)
内容:事業承継税制(中小企業経営承継円滑化法に基づく自社株式に係る贈与税・相続税の納税猶予制度)の適用方法と、投資育成会社を併用する実践的な活用法をご説明いただきます。

【対 象】中小企業経営者、中小企業支援機関、中小企業診断士等
【参加費】3,000円

申込方法:東京都中小企業診断士協会のWebサイトを御参照ください。
http://www.t-smeca.com/

事業承継スキルアップ講座「事業承継の事例紹介」

2015-10-01

事業承継スキルアップ講座にて「事業承継の事例紹介」をテーマとする講義を行いました。
動画を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。





親族内の事業承継は、親子関係の問題と密接に関わっています。親子の関係が悪ければ、事業価値源泉の承継がうまくいかず、最悪の場合、業績が悪化してしまう場合もあるのです。今回は中小企業診断士の渋川氏がご自身の家業の事業承継に取り組まれ、波乱万丈な人生を送られた実体験を語っていただきました。これから中小企業のM&Aと事業承継の支援がますます重要になることを理解していただけると思います。

事業承継スキルアップ講座「事業承継コンサルタントの営業活動」

2015-10-01

事業承継スキルアップ講座にて「事業承継コンサルタントの営業活動」をテーマとする講義を行いました。
動画を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。





事業承継の必要性は高まってきているのですが、その支援・アドバイスに対する潜在的なニーズを私達コンサルタントが掘り起こすことができていません。公的機関や金融機関が対応できない事業承継ニーズを中小企業診断士が見つけ、それを対応できるような体制を構築していきたいと考えています。これから中小企業のM&Aと事業承継の支援に取り組んでまいります。

事業承継の必要性と事業承継対策の概要

2015-09-21

1.なぜ事業承継の準備が必要なのか

今後も進む高齢社会の下で、中小企業の経営者の平均年齢は60歳(図表1)と、特に年々高齢化が進む資本金5,000万円未満の企業の経営者が平均を押し上げ、30年前に比べて約8歳上昇しています。

図表1:資本金規模別の会社代表者平均年齢の推移

中小企業の経営者が高齢化する一方で、後継者の確保が益々困難になってきており、中小企業の廃業が年間29万社あるなかで、後継者不在を理由とする廃業は7万社に上っています。

主な事業承継の形態としては、同族への承継、内部昇格、外部からの招聘、及びM&Aが挙げられます。日本では、中小企業の多くが同族会社とされており、2003年の調査では20年以上前は親族内承継が8割を占めていました。

図表2:先代経営者との関係の変化

しかしながら調査時点では、その他の親族を含めても親族内承継は約6割に減少しており(図表2)、自分の子の意に反して、親族内の後継者確保は年々困難になってきているといえます。

多くの中小企業では、オーナー社長が自社株式の大半や事業用資産を保有し、強いリーダーシップを発揮しながら会社を経営しています。そのような経営状態の中、準備が不十分な状態でいざ事業承継となった場合には、親族間の相続問題の発生や、取引先、金融機関、幹部社員や従業員などのステークホルダーとの信頼関係ができていない、経営ノウハウなどが後継者へ十分に伝わっていない、あるいは相続税等の負担・自社株式・事業用資産の取得等に必要な資金が用意できないなど、様々な問題が生じて事業の継続を断念せざるを得ない事態も生じかねません。

中小企業は、社長個人の信用力に因るところが大きく、高い技術力や優れたサービスに基づく競争力があるにも係わらず、スムーズな事業承継ができずに廃業するケースが多く見られます。

近年は積極的なM&Aによる会社の売却も選択肢の一つとして考えられるようになってきました。親族内承継、M&Aのいずれにせよ、大切な会社の将来を見据え、円滑な事業承継のための様々な準備を計画的に行っていく必要があります。

2.何を事業承継するのか

では何を誰に、どのように承継していけば良いのでしょうか。事業承継は、現経営者から後継者へ、企業が培ってきた様々な財産を引き継ぐことによって事業のバトンタッチを行うことです。事業承継は、「経営」の承継と「財産(特に株式)」の承継の2つに大別されます。「経営」の承継では、事業を継続するために必要な業務知識や経験、人脈、リーダーシップなどの経営ノウハウに加え、現経営者の経営に対する想いや信条、価値観などに基づいた経営理念という無形の財産を伝えていくことが大切です。「経営」の継承は、単に後継者を決めることに留まらず、経営者としての資質、能力、マインドなどを承継することが目的となります。

一方「財産」の継承は経営権、支配権の確保を目的としており、自社株式や不動産などの事業用資産の承継が主となります。多くの中小企業では、オーナーの個人資産が少なからず投入されていることが多く、経営者による大半の自社株式所有や土地などの個人資産を事業の用に供しているなど、企業の所有権と経営権の分離が困難なケースが多く見受けられます。

そしてこのことが、親族間の遺産分割の問題を顕在化させる大きな要因となります。親族の一人を後継者とした場合、他の相続人の権利によって相当程度の財産が分散してしまう可能性があり、後継者以外への自社株式や土地などの財産の分散を防ぐためには、多額の現金などを用意し、代わりに相続させることが必要となります。

また相続人間の争いが発生せずに後継者一人が承継した場合でも、多額の相続税が課されることも考えられます。更に、経営者が金融機関と締結している個人保証や担保提供は、後継者が事業承継を考えるに当たって大きな負担になることが多く、大きなリスクを承知で引き受けるに値する動機付けと経営へのコミットが必要となってきます。

このように、スムーズな事業承継を行うためには、後継者の育成に早期から計画的に取り組むことと、多額の資金調達が必要となる自社株式や事業用資産の買い取りや相続税の納税資金などのために事前に必要な資金を確保することなどが重要となります。

3.後継者の経営支配権の維持・確立

承継後の経営を安定させ、迅速な意思決定を可能とするためには、後継者へ自社株式を集中させること、及び不動産等の事業用資産を自由に利用・処分できることが重要となります(図1)。

図1自社株式の集中は、議決権の相当の割合(株主総会で経営の重要事項を決議できる3分の2以上)を保有することであり、これは経営の安定性を確保するためにも重要となります。不動産等の事業用資産(例えば、オーナー経営者が個人保有する土地を同族会社へ賃貸しているケースなど)は、その大半が経営者個人による所有となっており、経営権と所有権が一致しているケースが多くなっています。そのため、事業用資産が引き続き事業の用に供される場合には、親族間の遺産分割によって資産を分散させないよう対策が求められます。

また、事業承継には相続税対策も極めて重要な課題となってきます。スムーズな承継によって後継者が安定して経営できるよう、事業と経営支配権を維持した上でどのように節税をするかという視点も欠かすことができません。

これらを踏まえ、かつ後継者以外の相続人への配慮を持って円滑な承継を行うため、親族内承継の場合について3つの視点から考えてみます。

(1)生前贈与、遺言

生前贈与は、経営者の生存中に権利の移転が実現し、自社株式を譲り受けた後継者の地位が安定するため、非常に有効な方法と考えられます。しかしながら、自社株式や事業用資産の後継者への集中は、民法上他の相続人の権利によって制限を受けることとなります。

相続人が複数の場合、他の相続人の遺留分(※)を侵害する原因となって相続人間の争いを引き起こし、事業用の財産の分散によって事業承継に大きなマイナス要因となる可能性があります。そのため、財産の分割方針を決定した上で計画的にすすめていくことが必要となります。
※ 兄弟姉妹以外の相続人に対して、最低限度の資産継承を保障する制度

一方、遺言は法定相続に優先するため、遺留分に留意すれば相続争いや遺産分割協議を避け、自社株式や事業用資産を後継者へ集中させることが可能です。しかし、遺言はいつでも撤回可能なため、生前贈与と比較して後継者の地位が不安定となる可能性もあります。

また、税制面では、それぞれの状況に応じて各種制度の税負担や適用要件を比較し選択することとなります。相続人に貢献に見合った財産を与える場合は、贈与や遺言ではなく会社の報酬として与えることも有効な方法です。これは贈与に該当せず、他の相続人の遺留分を侵害するという事態も発生しないためです。

(2)会社や後継者による自社株式の買取り

事業承継時点において役員や従業員などに自社株式が分散している場合、可能な限り買取りを実施して株式を集約させる場合があります。後継者の経営支配権を確保するためであり、将来的に当該株主と会社との関係が希薄化していき、経営に何らかの障害が生じる可能性を未然に防ぐことが期待できます。

また、現経営者には協力的だった株主が後継者に交代した以後は非協力的となり、経営の意思決定がスムーズにいかなくなることも考えられます。この場合、後継者の持株比率を高める必要がありますが、後継者個人または会社が株主と交渉して自社株式を買取る方法と、会社が新株を発行して後継者にのみ割り当てる方法があります。経営支配権を確実なものとするためには、後継者個人による買取りがより望ましいといえますが、多額の株式買取り資金の工面が困難な場合などは、会社が買取ることとなります。

(3)会社法の活用

株式の集中による経営支配権の確保も重要ですが、現在の株式の分散を阻止する措置を講じておくことも同様に重要となります。具体的には以下のとおりです。

・株式の譲渡制限を設ける
相続人に対する売り渡し請求を行う
・種類株式の活用、例えば、議決権制限株式(※1)、拒否権付株式(※2)の発行

※1 議決権制限株式を活用する場合、議決権のある株式を後継者に割り当てる一方で、議決権が制限される株式を後継者以外の相続人に割り当てることによって、後継者への経営権の集中を図ります。

※2 拒否権付株式を活用する場合、自社株式の大半を後継者に譲渡することで後継者に議決権が集中しますが、経営に不安が残るため、けん制する余地を残したい場合などに、先代経営者が拒否権付株式を所有します。強い効力を持つ株式のため、後継者以外に渡らぬよう遺言で後継者に相続させるなどの配慮が必要となります。

これらは親族内継承の視点となりますが、現状は約4割の中小企業が役員や従業員など親族外から後継者を選出しており、オーナー社長に親族の後継者がいない場合などは社内関係者(役員や従業員)から後継者候補を探すことがその典型といえます。この場合、後継者による株式取得資金が不足するケースや、金融機関からの借入に対する現経営者の個人保証の取り扱いなどの課題が見受けられます。

金融機関は、現経営者の個人資産だけでなく経営力も評価して融資を行うため、経営者が交替したからと言って連帯保証が解除される訳ではなく、現経営者による個人保証に後継者を加えるよう求められることが通常です。そのため債務の圧縮を図ることが重要となりますが、個人保証を完全に解除することは困難といえます。金融機関との交渉を根強く継続することに加え、後継者の負担に見合った報酬を確保するなどの配慮が必要とされます。

このほか、後継者の能力や事業の将来性を担保とし、金融機関からの融資や投資会社からの出資を受ける、あるいは事業承継する会社の経営陣が株式を取得して経営権を取得するMBO(マネジメント・バイ・アウト)などの方法もあります。

後継者が見つからない場合などは、会社そのものを第三者に売却するM&Aも選択肢の一つです。

 

「従業員への事業承継と経営承継円滑化法セミナー」

2015-09-20

代表の岸田康雄が、東京都中小企業振興公社にて「従業員への事業承継と経営承継円滑化法セミナー」のセミナー講師を担当します。

公社チラシ

平成27年11月14日(水)14:00-16:30、東京都中小企業振興公社3階会議室にて。対象は、都内中小企業で事業承継を考えている現経営者及び後継者の方々

「遺言・相続手続・相続税」まるわかりガイドを1社につき1冊プレゼント!定員は100名で先着順です!

親族内事業承継の3つの方法

2015-09-07

自社株式の「譲渡」と「贈与」の違いとは?
事業承継を行うためには、後継者へ自社株式を移転する必要があります。これには大きく3つの方法がありますが、下記でそれぞれ見ていきましょう。
①後継者に対する自社株式の「譲渡」
自社株式の譲渡とは、事業承継を行う際、後継者に現経営者が持っている株式を買ってもらうことをいいます。つまり、現経営者の自社株式は、「売買」によって後継者へ移転されます。その際、適正な対価が支払われることになりますので、相続の場合とは異なり、遺産分割争いの対象となったり、後継者以外の相続人から遺留分を主張されたりすることはなく、後継者の経営支配力は確実に承継されることになります。
しかし、後継者は株式の買取りに必要な対価として多額の現金を支払わなければなりません。通常は金融機関からの借入金によって賄うことになるでしょう。また、現経営者は保有する自社株式を手放す代わりに多額の現金を取得することになりますので、相続財産は減るどころか、逆に財産評価は高まることになります。
また、現経営者から後継者への株式譲渡によって、現経営者に譲渡所得が発生するケースが多く見られますが、その場合は申告分離課税で税率20%(所得税15%、住民税5%)の所得税が課されます。
後継者への株式譲渡によって譲渡所得が計上される場合には、可能であれば、他に含み損失のある金融商品を見つけ(平成28年からは債券の譲渡損失も損益通算できるようになります)、その含み損失を実現させることによって、損益通算による節税を図るとよいでしょう。
なお、後継者への株式譲渡が適正な時価と比べて著しく低い価額で行われた場合、自社株式の時価と後継者への譲渡価額との差額分については、後継者が贈与を受けたものみなされ、贈与税が課されることになるため、注意が必要です。
②後継者に対する自社株式の「贈与」
贈与による株式承継は、事業承継を行う際、現経営者の保有する自社株式を贈与によって後継者へ移転させる方法です。その際、後継者は自社株式を取得に対価を支払う必要はなく、贈与税負担のみで経営権を確保することができます。
ただし、贈与の方法のうち暦年贈与の場合、年間110万円の基礎控除を超える部分には贈与税が課されます。また、生前贈与の場合、特別受益として相続発生時に、後継者以外の相続人から遺留分を主張されるおそれがあり、後継者の経営権の維持には、やや不安が残ります。遺留分の主張を回避する方法としては、後継者以外の相続人に遺留分を事前に放棄してもらう手続きを取ってもらうことや、中小企業経営承継円滑化法の除外合意を活用することが考えられます。
一方、110万円の暦年贈与の税負担が重すぎる場合、相続時精算課税制度を活用した自社株式の贈与も有効です。これは、60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子・孫への生前贈与について、贈与時には贈与財産のうち2,500万円を超える部分に対して20%の贈与税を支払い、その後相続時にその贈与財産とその他の相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税額を精算する方法です。
自社株式の相続税評価額が今後上昇する見込みがある場合、あるいは、退職金による特別損失などで一時的に株価が著しく下落した場合は、相続時精算課税制度を利用し、後継者に対して自社株式を一気に移転してしまうことによって、大幅な節税が可能になる場合があります。
さらに、中小企業経営承継円滑化法による贈与税の納税猶予制度によって、税負担ゼロで自社株式を後継者へ移転する方法もあります。これは極めて有効な手法になるのですが、次回以降の記事において、詳しく説明したいと思います。
相続は「いつ発生するか」わからない
③後継者による自社株式の「相続」
相続による株式承継は、現経営者の死亡時、すなわち、相続のタイミングで現経営者の保有する自社株式を後継者へ承継させる方法です。つまり、生前において事業承継対策は何もしないというものです。後継者は自社株式の取得のための対価を支払う必要はありませんが、相続税を負担しなければなりません。その税負担の大きさは、株式以外の財産を含めた相続財産の大きさ等によりますから、自社株対策を行っていない場合には生前贈与と比べて税負担が重くなるケースが多く見られます。
この相続、自社株式が遺産分割争いの対象となってしまう場合が問題となります。相続人が複数いるにもかかわらず、現経営者が遺言書を遺さずに死亡した場合、自社株式の承継のために遺産分割協議を経なければならず、後継者が十分な支配権を得るための自社株式を相続できるかどうかわかりません。また、分割協議が整わないうちは自社株式が全相続人の共有となり、後継者はもちろん全ての相続人が自社株式を自由に処分することはできません。また、たとえ遺言書が残されていた場合であっても、他の相続人から遺留分を主張されるおそれもあるため、後継者の地位は安泰であるとは言えません。
株式承継に伴う税負担を軽減するためには、現経営者は、相続が発生する前の早い段階から贈与や譲渡などで持っている自己株式の数を減らしていかなければいけません。早めの対策、それが事業承継には必要です。
相続はいつ発生するかわからないため、株価をどのタイミングで引き下げればよいのか、決めることができません。これに対して、贈与や譲渡は予め実行時期を決めることができます。実行時期が決まっていれば、様々な株価引下げ対策を講じることができます。株価のコントロールは事業承継において不可欠の課題なのです。

一橋大学大学院商学研究科修士課程修了(経営学及び会計学専攻)
税理士、公認会計士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)
日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員

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