事業承継の方向性が決まったときの経営承継の進め方

2015-12-08

子供が会社を承継する場合(親族内承継)

子供へ社長交代しますので、経営者として一人前になるよう、子供の後継者教育に着手します。一般的に、後継者の育成期間は5~10年程度かかるといわれています。関係者(取引先、従業員、金融機関など)の理解、会社内部でのジョブ・ローテーション、会社外部の後継者研修の受講など、後継者として会社を経営していくにあたっての知識・経験を蓄積していく必要があり、計画的に行っていく必要があります。事業承継計画を作らなければなりません。

事業承継計画は、現経営者だけで策定するのではなく、必ず現経営者と後継者が一緒に作成するようにしましょう。特に、経営理念・ブランド・ノウハウ・技術力などの目に見えにくい会社の強み(無形資産)について、現経営者と後継者でコミュニケーションをとりながら承継していく必要があります。

また、現経営者が所有している自社株式や事業用不動産などをどのように後継者へ承継(贈与)するか、後継者へ個人財産の大部分を承継した場合に後継者ではない他の親族への財産配分はどうするかといった財産承継の問題も伴います。

親族外の役員・従業員が承継する場合

昨今、親族内で事業承継ができないケースが増えてきています。子供以外の親族で後継者候補がいないかを検討し、いないようであれば会社内部の役員・従業員の中に後継者候補がいないかを検討します。ただ、従業員はもともと経営者になるつもりで会社に入社していないため、「会社を継ぐ覚悟」という点で、親族内承継よりもハードルが高い傾向にあります。

また、銀行に対する経営者保証の引継ぎ、現経営者の親族や取引先・従業員からの理解を得ること、自社株式を現経営者から買い取るための資金調達など、後継者である役員・従業員には大きな問題が伴います。

親族外の第三者へ売却する場合

事業承継の手段としてM&Aも有効です。会社内部の役員・従業員にも後継者候補がいないようでしたら、社外の第三者に後継者候補を探すことになります(会社売却、後継者候補を外部から招聘など)。この場合、事業の引継ぎ相手(後継者)をどのように見つけるかが最大の難関ですが、普段の取引先との付き合いの中で引継ぎ先を見つけること、同じ市場にいる競合他社を引継ぎ先とすることが考えられます。そのため、M&Aを専門とする公認会計士に相手探しを依頼することで、社外の後継者を見つけることになります。

12/5(土)&19(土)中小企業の相続・事業承継の実務【電卓持参必須】、中小企業白書

2015-11-23

あきない総研主催理論政策更新研修にて岸田が講師を担当します。テーマは事業承継です。非上場株式の株価の計算演習を行いますので、電卓持参が必須の研修となっています。

2015年12月5日(土)14:00-18:00 東京六本木会場(katanaオフィス六本木・2階会議室)

2015年12月19日(土)13:00-17:00 東京六本木会場(katanaオフィス六本木・2階会議室)

お申込みはこちらから!
あきない総研の理論政策更新研修の申込みWebサイト

【電卓持参必須】中小企業の相続・事業承継の実務、中小企業の事業承継の現状(中小企業白書)

  • 岸田 康雄
 

①中小企業オーナーの相続・事業承継の実務

事業承継には「経営承継」と「資産承継」という法人・個人両面の問題がありますが、中小企業診断士は「経営承継」を重視する一方で、「資産承継」について軽視する傾向にあります。後継者への株式の移転に際して多くの税務上の論点を伴うからです。本研修では、事例や計算例を通じて、事業承継コンサルティング手法を「経営承継」と「資産承継」の両面からわかりやすく解説いたします。特に、非上場株式を後継者へ移転する際の税務上の論点(株式評価など)を理解します。

【株式承継】
非上場株式の評価、相続税の計算方法、最適な株式承継スキーム(贈与、譲渡、相続)、親族外承継とM&A

【経営承継】
後継者の選定と経営権の移転方法、事業価値源泉の分析と維持・承継、事業承継計画書の作成

②中小企業の事業承継の現状(中小企業白書)

企業経営の多くの部分を、経営者の経営能力や経験に依存する中小企業にとって、経営者の高齢化と後継者難は、廃業に直結する問題です。中小企業が有する技術やノウハウ等の事業価値源泉を喪失させないためにも、後継者の確保はもちろん、後継者の育成や資産の引継ぎ等、中長期にわたる事業承継の準備に、早期から計画的に取り組むことが求められます。一方、後継者不在の場合、経営者の子ども以外への事業承継や事業売却(M&A)も含めて検討するケースも増えてきています。本研修では、 2014年度版中小企業白書第3章「事業承継・廃業(次世代へのバトンタッチ)」を読み、中小企業の事業承継の現状と課題を理解します。

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事業承継支援における中小企業診断士と投資育成会社との連携

2015-10-26

事業承継支援における中小企業診断士と投資育成会社との連携

中小企業経営者の事業承継を成功させるためには、社長という地位の「経営承継」と、自社株式という財産の「株式承継」の両面を同時に考える必要があります。そのため、経営承継の専門家である中小企業診断士は、積極的に自らお客様へ提案するとともに、株式承継の専門家である公認会計士との連携を行わなければなりません。

株式承継の手段としては、「中小企業経営承継円滑化法に基づく納税猶予制度」の適用が最も効果的です。
また、この制度を適用しない場合には、投資育成会社への増資が有効な手段となります。
中小企業診断士として、株式承継対策の必要性をお客様に提案し、他の専門家との差別化を図っていかなければなりません。

本セミナーでは、まず小黒会長から事業承継支援業務の社会的なニーズの大きさ、それに対する中小企業診断士の役割をわかりやすく解説します。次に、「事業承継における投資育成会社の活用法」というテーマで、具体的手法を、事例を交えて東京中小企業投資育成㈱の公認会計士からご講演いただきます。
さらに、事業承継税制(中小企業経営承継円滑化法に基づく納税猶予制度)の適用と、投資育成会社を併用する実践的な活用方法について、事業承継コンサルティング㈱の公認会計士から説明します。
中小企業診断士による事業承継支援業務の全体像を明らかにします。

中小企業診断士による事業承継支援は、東京都中小企業診断士協会の小黒会長が強力に後押しする取り組みであり、本セミナーは、事業承継支援に取り組もうとする中小企業診断士の方々にとって極めて有用な内容です。ぜひご参加ください。

【日 時】 2015年12月16日(水)13:30~16:30(受付開始13:00)
【会 場】 東京中小企業投資育成㈱ 大ホール
  (東京都渋谷区渋谷3-29-22)

【プログラム】
(1)「事業承継支援における中小企業診断士の役割」
講師:小黒光司(東京都中小企業診断士協会会長、中小企業診断士)
内容:事業承継支援に対する社会的なニーズの大きさ、それに対する中小企業診断士が果たすべき役割をご説明いただきます。

(2)「事業承継における投資育成会社の活用法」
講師:中野威人(東京中小企業投資育成㈱、公認会計士)
内容:経営権を確保しつつ事業承継を進める具体的手法を、事例を交えてご説明いただきます。

(3)「経営承継円滑化法に基づく納税猶予制度の活用法」
講師:岸田康雄(日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」専門研究委員、事業承継コンサルティング㈱、公認会計士)
内容:事業承継税制(中小企業経営承継円滑化法に基づく自社株式に係る贈与税・相続税の納税猶予制度)の適用方法と、投資育成会社を併用する実践的な活用法をご説明いただきます。

【対 象】中小企業経営者、中小企業支援機関、中小企業診断士等
【参加費】3,000円

申込方法:東京都中小企業診断士協会のWebサイトを御参照ください。
http://www.t-smeca.com/

11/10(火)金融財務研究会「M&Aセミナー」

2015-10-11

非上場会社を対象としたM&A、
条件交渉、株式評価、取引スキーム
日時:平成27年11月10日(火)
午後1時00分~午後4時30分
会場:金融財務研究会本社 グリンヒルビル セミナールーム
 (東京都中央区日本橋茅場町1-10-8)
受講費:37,900円(消費税、参考資料を含む)
お二人目から32,000円、
書籍ご持参の方は2,200円引き
日本M&AセンターなどM&A仲介業者の業績が急拡大しているように、昨今、中小企業の事業承継に伴うM&Aに急増しています。

非上場会社のM&Aは、大企業による子会社売却とは異なり、売り手が個人オーナーとなるため、個人株主特有の論点を考慮しなければなりません。すなわち、非上場会社特有のM&Aプロセスや上場会社とは異なる株式評価など特有の論点が存在します。例えば、企業グループ内組織再編を目的とするM&Aにおいて考慮すべき税務上の株価(所得税法上の時価、法人税法上の時価)についての検討が必要となる局面があるため、DCF法やマルチプル法だけ理解していればよいというわけではありません。

そこで、本セミナーでは、非上場会社を対象としたM&Aについて、その特有の論点を整理のうえ、実務手続の進め方(M&Aプロセス)、非上場株式の評価、条件交渉の進め方、取引スキームの立案方法や実務上の留意点を、具体例を交えて解説します。

非上場会社を買収しようとする上場企業のM&A担当者、M&Aアドバイザリー業務を収益チャンスと捉える金融機関の営業担当者や経営コンサルタントの方々にとって極めて有益な内容です。経営者の高齢化による事業承継案件が増加する経営環境を考慮しますと、【買い手:上場企業→売り手:個人オーナー、対象:非上場会社】のM&A実務を習得することは不可欠と言えるでしょう。

1. 非上場会社のM&Aプロセス
1. 個人オーナーの意思決定と売却準備
2. 入札方式と相対取引の対応方法
3. 情報開示と意向表明書の提出
4. 株式譲渡契約書における条件交渉のポイント
(ア) 表明保証、誓約事項及びクロージングの前提条件と、
解除や補償との関係
(イ) デュー・ディリジェンスで瑕疵が発見された場合の条件交渉
5. M&Aを通じた経営承継
2. 非上場会社の株式評価
1. 非上場会社の価値とは何か、どのように評価すべきか
2. M&A株価の評価方法(DCF法、類似上場企業比較法)
3. 税務上の株価の算定方法(所得税法、法人税法の時価)
3. 非上場会社の取引スキーム

1. 売り手が個人オーナーによる株式売却
2. 第三者割当増資と支配権移転と、発行会社による
自社株買取り
3. M&A前の役員退職金支払い
4. 従業員による承継(MBO)
5. 組織再編(会社分割による不動産切離し)を伴うM&A
6. 経営統合(合併、共同持株会社設立)を目的とするM&A
~質疑応答~ 

事業承継スキルアップ講座「事業承継の事例紹介」

2015-10-01

事業承継スキルアップ講座にて「事業承継の事例紹介」をテーマとする講義を行いました。
動画を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。





親族内の事業承継は、親子関係の問題と密接に関わっています。親子の関係が悪ければ、事業価値源泉の承継がうまくいかず、最悪の場合、業績が悪化してしまう場合もあるのです。今回は中小企業診断士の渋川氏がご自身の家業の事業承継に取り組まれ、波乱万丈な人生を送られた実体験を語っていただきました。これから中小企業のM&Aと事業承継の支援がますます重要になることを理解していただけると思います。

事業承継の必要性と事業承継対策の概要

2015-09-21

1.なぜ事業承継の準備が必要なのか

今後も進む高齢社会の下で、中小企業の経営者の平均年齢は60歳(図表1)と、特に年々高齢化が進む資本金5,000万円未満の企業の経営者が平均を押し上げ、30年前に比べて約8歳上昇しています。

図表1:資本金規模別の会社代表者平均年齢の推移

中小企業の経営者が高齢化する一方で、後継者の確保が益々困難になってきており、中小企業の廃業が年間29万社あるなかで、後継者不在を理由とする廃業は7万社に上っています。

主な事業承継の形態としては、同族への承継、内部昇格、外部からの招聘、及びM&Aが挙げられます。日本では、中小企業の多くが同族会社とされており、2003年の調査では20年以上前は親族内承継が8割を占めていました。

図表2:先代経営者との関係の変化

しかしながら調査時点では、その他の親族を含めても親族内承継は約6割に減少しており(図表2)、自分の子の意に反して、親族内の後継者確保は年々困難になってきているといえます。

多くの中小企業では、オーナー社長が自社株式の大半や事業用資産を保有し、強いリーダーシップを発揮しながら会社を経営しています。そのような経営状態の中、準備が不十分な状態でいざ事業承継となった場合には、親族間の相続問題の発生や、取引先、金融機関、幹部社員や従業員などのステークホルダーとの信頼関係ができていない、経営ノウハウなどが後継者へ十分に伝わっていない、あるいは相続税等の負担・自社株式・事業用資産の取得等に必要な資金が用意できないなど、様々な問題が生じて事業の継続を断念せざるを得ない事態も生じかねません。

中小企業は、社長個人の信用力に因るところが大きく、高い技術力や優れたサービスに基づく競争力があるにも係わらず、スムーズな事業承継ができずに廃業するケースが多く見られます。

近年は積極的なM&Aによる会社の売却も選択肢の一つとして考えられるようになってきました。親族内承継、M&Aのいずれにせよ、大切な会社の将来を見据え、円滑な事業承継のための様々な準備を計画的に行っていく必要があります。

2.何を事業承継するのか

では何を誰に、どのように承継していけば良いのでしょうか。事業承継は、現経営者から後継者へ、企業が培ってきた様々な財産を引き継ぐことによって事業のバトンタッチを行うことです。事業承継は、「経営」の承継と「財産(特に株式)」の承継の2つに大別されます。「経営」の承継では、事業を継続するために必要な業務知識や経験、人脈、リーダーシップなどの経営ノウハウに加え、現経営者の経営に対する想いや信条、価値観などに基づいた経営理念という無形の財産を伝えていくことが大切です。「経営」の継承は、単に後継者を決めることに留まらず、経営者としての資質、能力、マインドなどを承継することが目的となります。

一方「財産」の継承は経営権、支配権の確保を目的としており、自社株式や不動産などの事業用資産の承継が主となります。多くの中小企業では、オーナーの個人資産が少なからず投入されていることが多く、経営者による大半の自社株式所有や土地などの個人資産を事業の用に供しているなど、企業の所有権と経営権の分離が困難なケースが多く見受けられます。

そしてこのことが、親族間の遺産分割の問題を顕在化させる大きな要因となります。親族の一人を後継者とした場合、他の相続人の権利によって相当程度の財産が分散してしまう可能性があり、後継者以外への自社株式や土地などの財産の分散を防ぐためには、多額の現金などを用意し、代わりに相続させることが必要となります。

また相続人間の争いが発生せずに後継者一人が承継した場合でも、多額の相続税が課されることも考えられます。更に、経営者が金融機関と締結している個人保証や担保提供は、後継者が事業承継を考えるに当たって大きな負担になることが多く、大きなリスクを承知で引き受けるに値する動機付けと経営へのコミットが必要となってきます。

このように、スムーズな事業承継を行うためには、後継者の育成に早期から計画的に取り組むことと、多額の資金調達が必要となる自社株式や事業用資産の買い取りや相続税の納税資金などのために事前に必要な資金を確保することなどが重要となります。

3.後継者の経営支配権の維持・確立

承継後の経営を安定させ、迅速な意思決定を可能とするためには、後継者へ自社株式を集中させること、及び不動産等の事業用資産を自由に利用・処分できることが重要となります(図1)。

図1自社株式の集中は、議決権の相当の割合(株主総会で経営の重要事項を決議できる3分の2以上)を保有することであり、これは経営の安定性を確保するためにも重要となります。不動産等の事業用資産(例えば、オーナー経営者が個人保有する土地を同族会社へ賃貸しているケースなど)は、その大半が経営者個人による所有となっており、経営権と所有権が一致しているケースが多くなっています。そのため、事業用資産が引き続き事業の用に供される場合には、親族間の遺産分割によって資産を分散させないよう対策が求められます。

また、事業承継には相続税対策も極めて重要な課題となってきます。スムーズな承継によって後継者が安定して経営できるよう、事業と経営支配権を維持した上でどのように節税をするかという視点も欠かすことができません。

これらを踏まえ、かつ後継者以外の相続人への配慮を持って円滑な承継を行うため、親族内承継の場合について3つの視点から考えてみます。

(1)生前贈与、遺言

生前贈与は、経営者の生存中に権利の移転が実現し、自社株式を譲り受けた後継者の地位が安定するため、非常に有効な方法と考えられます。しかしながら、自社株式や事業用資産の後継者への集中は、民法上他の相続人の権利によって制限を受けることとなります。

相続人が複数の場合、他の相続人の遺留分(※)を侵害する原因となって相続人間の争いを引き起こし、事業用の財産の分散によって事業承継に大きなマイナス要因となる可能性があります。そのため、財産の分割方針を決定した上で計画的にすすめていくことが必要となります。
※ 兄弟姉妹以外の相続人に対して、最低限度の資産継承を保障する制度

一方、遺言は法定相続に優先するため、遺留分に留意すれば相続争いや遺産分割協議を避け、自社株式や事業用資産を後継者へ集中させることが可能です。しかし、遺言はいつでも撤回可能なため、生前贈与と比較して後継者の地位が不安定となる可能性もあります。

また、税制面では、それぞれの状況に応じて各種制度の税負担や適用要件を比較し選択することとなります。相続人に貢献に見合った財産を与える場合は、贈与や遺言ではなく会社の報酬として与えることも有効な方法です。これは贈与に該当せず、他の相続人の遺留分を侵害するという事態も発生しないためです。

(2)会社や後継者による自社株式の買取り

事業承継時点において役員や従業員などに自社株式が分散している場合、可能な限り買取りを実施して株式を集約させる場合があります。後継者の経営支配権を確保するためであり、将来的に当該株主と会社との関係が希薄化していき、経営に何らかの障害が生じる可能性を未然に防ぐことが期待できます。

また、現経営者には協力的だった株主が後継者に交代した以後は非協力的となり、経営の意思決定がスムーズにいかなくなることも考えられます。この場合、後継者の持株比率を高める必要がありますが、後継者個人または会社が株主と交渉して自社株式を買取る方法と、会社が新株を発行して後継者にのみ割り当てる方法があります。経営支配権を確実なものとするためには、後継者個人による買取りがより望ましいといえますが、多額の株式買取り資金の工面が困難な場合などは、会社が買取ることとなります。

(3)会社法の活用

株式の集中による経営支配権の確保も重要ですが、現在の株式の分散を阻止する措置を講じておくことも同様に重要となります。具体的には以下のとおりです。

・株式の譲渡制限を設ける
相続人に対する売り渡し請求を行う
・種類株式の活用、例えば、議決権制限株式(※1)、拒否権付株式(※2)の発行

※1 議決権制限株式を活用する場合、議決権のある株式を後継者に割り当てる一方で、議決権が制限される株式を後継者以外の相続人に割り当てることによって、後継者への経営権の集中を図ります。

※2 拒否権付株式を活用する場合、自社株式の大半を後継者に譲渡することで後継者に議決権が集中しますが、経営に不安が残るため、けん制する余地を残したい場合などに、先代経営者が拒否権付株式を所有します。強い効力を持つ株式のため、後継者以外に渡らぬよう遺言で後継者に相続させるなどの配慮が必要となります。

これらは親族内継承の視点となりますが、現状は約4割の中小企業が役員や従業員など親族外から後継者を選出しており、オーナー社長に親族の後継者がいない場合などは社内関係者(役員や従業員)から後継者候補を探すことがその典型といえます。この場合、後継者による株式取得資金が不足するケースや、金融機関からの借入に対する現経営者の個人保証の取り扱いなどの課題が見受けられます。

金融機関は、現経営者の個人資産だけでなく経営力も評価して融資を行うため、経営者が交替したからと言って連帯保証が解除される訳ではなく、現経営者による個人保証に後継者を加えるよう求められることが通常です。そのため債務の圧縮を図ることが重要となりますが、個人保証を完全に解除することは困難といえます。金融機関との交渉を根強く継続することに加え、後継者の負担に見合った報酬を確保するなどの配慮が必要とされます。

このほか、後継者の能力や事業の将来性を担保とし、金融機関からの融資や投資会社からの出資を受ける、あるいは事業承継する会社の経営陣が株式を取得して経営権を取得するMBO(マネジメント・バイ・アウト)などの方法もあります。

後継者が見つからない場合などは、会社そのものを第三者に売却するM&Aも選択肢の一つです。

 

「従業員への事業承継と経営承継円滑化法セミナー」

2015-09-20

代表の岸田康雄が、東京都中小企業振興公社にて「従業員への事業承継と経営承継円滑化法セミナー」のセミナー講師を担当します。

公社チラシ

平成27年11月14日(水)14:00-16:30、東京都中小企業振興公社3階会議室にて。対象は、都内中小企業で事業承継を考えている現経営者及び後継者の方々

「遺言・相続手続・相続税」まるわかりガイドを1社につき1冊プレゼント!定員は100名で先着順です!

事業承継における生命保険の活用

2015-07-18

事業承継では、先代経営者から後継者に自社株式を引き継がせることになります。後継者が子供でも従業員でも、事業承継に伴う混乱をできる限り抑えなければなりません。

事業承継を円滑に行うためには、自社株式の承継に伴う資金(買取り資金、納税資金)を準備しなければなりません。そのために、法人契約の生命保険(逓増定期保険、長期平準定期保険、終身保険)を活用することができます。また、個人契約の生命保険の活用方法もあります。


誰を後継者にするか、どのように承継させるか

まず、誰に承継させるかということですが、これまで親族内の承継が多数を占めていました。しかし、近年、従業員が内部昇格によって承継するケースや、外部の人が承継するケースが増えてきています。中小企業白書によれば、親族内承継が40%強と最も多いですが、従業員承継も40%弱にまで増えてきており、外部から人を招いて後継者にするケースも10%を超えています。ただ、いずれにしても、結局のところ、後継者の税負担を軽減することが重要です。


子供が後継者である場合に活用できる生命保険

自社株式を子供が承継するときに起こる可能性がある問題は、以下の3つです。


  • 後継者が相続税または贈与税を納税する資金が必要になる
  • 自社株式以外の相続財産が少ない場合、後継者が他の法定相続人から相続分または遺留分を主張され、代償分割を行う可能性がある

特に遺留分については、たとえ先代経営者が「株式の全部を後継者に相続させる」という遺言を残したとしても、排除することはできません。そこで、先代経営者が、後継者である子供の負担を軽くするために、生命保険を活用するのです。


  1. 後継者のために必要な資金を準備する→生命保険(経営者個人加入)
  2. 自社株式の財産評価を引き下げる→逓増定期保険・長期平準定期保険
  3. 会社が後継者から自社株式を買い取る資金を準備する→終身保険・長期平準定期保険(法人保険)

生命保険で納税資金を準備する

後継者が子供であれば、先代経営者が個人契約で生命保険に加入し、受取人を後継者である子供にしておくことができます。注意が必要なのは、子供の配偶者(娘婿など)や、兄弟姉妹の配偶者(2親等の姻族)や、おい・めい(3親等の血族)を後継者とする場合です。生命保険の受取人は2親等内の「血族」までなので、これらの人々は含まれません。どうしても生命保険の受取人になってもらいたい場合は、養子縁組をして「法定血族」になってもらうしかありません。

親等の早見表

後継者が受け取る生命保険金は、民法上は相続財産にあたらないので、他の法定相続人の法定相続分や遺留分の対象になりません。また、生命保険金は相続税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象になりますが、「500万円×法定相続人の数」について相続税の非課税枠があります。

したがって、後継者である子供が、相続した自社株式について、後継者ではない他の相続人から遺留分を主張された場合には、後継者である子供は死亡保険金を使って代償分割を行うことができます。また、生命保険金は相続した自社株式に伴う相続税の納税資金としても大変有効です。


保険料の損金算入で自社株評価を引き下げる

後継者に自社株式を生前贈与しておきたい場合、後継者の税負担を軽減させるために、自社株式の評価を引き下げる必要があります。自社株式の相続税評価で類似業種比準方式を適用している場合、利益が圧縮されれば自社株式の評価が引下げられることになります。

利益を圧縮するには、先代経営者の退職金の資金の準備もかねて逓増定期保険、長期平準定期保険に加入することが考えられます。これらの保険は保険料が高額であり、その1/2を損金に算入することができます。その結果、利益が圧縮され、株式の評価が引下げられることになります。

逓増定期保険と長期平準定期保険の利用条件はそれぞれ以下の通りです。

〈逓増定期保険の利用条件〉


  1. 超高額な保険料を支払える見通しがあること
  2. 引退の時期(=先代経営者が退職金を受け取る時期)が5~10年後に定まっていること
  3. 引退の時期と解約返戻金の受取時期(ピーク)とが同じ年度になるように契約すること

〈長期平準定期保険の利用条件〉


  1. 高額な保険料を支払える見通しがあること
  2. 引退の時期が20~30年後に大まかに定まっていること
  3. 引退の時期と解約返戻金の受取時期(ピーク期間)とが概ね同じタイミングになるように契約すること

逓増定期保険は5~10年後の事業承継を考えている場合の保険

逓増定期保険とは、死亡保険金額が加入時から短期間のうちに当初の5倍程度まで増えていく定期保険を言います。

逓増定期表

死亡保険金は莫大に大きく、最初は1億円からスタートして5億円まで増える商品もあります。また、解約すれば「解約返戻金」を受け取ることができますが、これを退職金の財源に充てることになります。

解約返戻金にはピークがあります。このピークは加入5~10年目くらいです。また、ピーク時の解約返戻金の額は、それまでに支払われた保険料の総額の90%~100%程度に設定されています。つまり、5~10年目という早い時期に保険料総額と同程度の解約返戻金を受け取ることができるのです。そのため、保険料も非常に高額です。

保険料は、一部を損金に算入することが認められています。損金に算入できる割合が1/2、1/3、1/4の3タイプが認められていますが、最も使い勝手が良いのは1/2損金のタイプです。

※逓増定期保険のイメージ

逓増定期イメージ

〈逓増定期保険のメリット〉


  • 5~10年で保険料の1/2を損金に算入しながら退職金を準備できる
  • 保険料が超高額なため、利益の圧縮の効果が大きい
  • 退職金支給時に大きな赤字を計上するリスクを減らすことができる

株価を下げるのに利用するのであれば、逓増定期保険は、保険料の額がきわめて高額なので、利益の圧縮の効果が高いと言えます。また、5~10年という短期間で効果が上がるのも特徴です。

しかも、退職金の支給により多額の損金が出るところを、解約返戻金の受取により益金を計上できるので、大赤字になってしまうのを避けることもできます。

〈逓増定期保険のデメリット〉


  • 超高額な保険料が会社のキャッシュフローを圧迫するリスクが大きい
  • 解約返戻金の受取と退職金支給のタイミングがずれると大幅な黒字を計上してしまうリスクがある

保険料の額が超高額ですので、株価を大きく下げようと高額な契約をすれば、キャッシュフローが悪化して経営を圧迫するおそれがあります。超高額な保険料を5~10年間支払い続けられる自信がないのであれば、他の方法で利益を圧縮するほうが良いでしょう。

また、解約返戻金の受取りによって益金が計上されるため、退職金の支給時期を同じ年度にぴったり合わせて損金を計上しないと、大幅な黒字になり、会社が多額の税金を支払わなければならなくなるリスクもあります。

このように、逓増定期保険は、計画を立ててその通りに利用できればメリットが大きいですが、保険料の負担がかなり大きく、また、解約するタイミングがずれてしまうと会社が高額な税金を納めなければならなくなってしまうリスクがあります。

したがって、逓増定期保険の活用条件は以下の3つということになります。


  1. 高額な保険料を支払える見通しがあること
  2. 引退の時期(=ご自身が退職金を受け取る時期)が定まっていること
  3. 引退の時期と解約返戻金の受取時期(ピーク)とが同じ年度になるように契約すること

長期平準定期保険は20~30年後の事業承継を考えている場合の保険

長期平準定期保険は、保険期間が大変長く、その間の死亡保険金額が変わらない(=平準の)定期保険です。

長期平準の表

経営者の身に万が一のことがあった場合の事業保障のための保険なので、死亡保険金は逓増定期保険ほどではないものの高額で1億円程度になります。そのため、保険料も高額です。保険料は1/2が損金に算入されます。また、解約返戻金のピークは20~30年後のかなり遅い時期に設定されていて、しかも長く続くのが特徴です。

長期平準イメージ

〈長期平準定期保険のメリット〉


  • 20~30年かけて保険料の1/2を損金に算入しながら退職金を準備できる
  • 保険料が高額なため、利益の圧縮の効果が見込める
  • 退職金支給時に大きな赤字を計上するリスクを減らすことができる

長期平準定期保険は、保険料の額が高額なので、利益を圧縮して株価を引き下げるのに役立ちます。また、解約返戻金のピークが加入から20~30年後で、しかもピーク期間が長いことから、引退の年度をきっちりと定める必要はなく、大まかに決めておけば良いというメリットもあります。

さらに、退職金の支給により多額の損金が出るところを、解約返戻金の受取により益金を計上できるので、大赤字になってしまうのを避けることもできます。

〈長期平準定期保険のデメリット〉


  • 高額な保険料が会社のキャッシュフローを圧迫するおそれがある
  • 解約返戻金の受取と退職金支給のタイミングがずれると大幅な黒字を計上してしまうリスクがある

長期平準定期保険の保険料は、逓増定期保険ほどで高額ではありませんが、それでもかなりの高額です。したがって、十分な資金がないとキャッシュフローを悪化させるおそれはあります。長期平準定期保険は、逓増定期保険とくらべて解約返戻金と退職金のタイミングを合わせやすいですが、同じタイミングとすることができなければ、大幅な黒字を計上するリスクがあります。ピーク期間に安心して引退できるように、後継者への社長交代は計画的に進めていく必要があることは言うまでもありません。

したがって、長期平準定期保険の利用条件は以下の通りになります。


  1. 高額な保険料を支払える見通しがあること
  2. 引退の時期が20~30年後に大まかに定まっていること
  3. 引退の時期と解約返戻金の受取時期(ピーク期間)とがだいたい同じタイミングになるように契約すること

終身保険で会社が自社株を買い取り資金を準備する

後継者に自社株式を相続させたいという場合、自社株式の相続の伴う相続税負担が問題となります。つまり、相続税の納税資金が足りなくなるおそれがあります。

そのような場合、会社に自己株式の買取りを行わせて、資金を吸い上げることが効果的です。つまり、会社が後継者から自社株を買い取り、後継者が売却代金を受け取ってそれを相続税の納税資金に充てるのです。これには、会社の側で、自社株式(=自己株式)を買い取る資金を準備しておかなければなりません。そのために、会社が生命保険に法人契約で加入することが考えられます。つまり、先代経営者が死亡した場合、会社が死亡保険金を受け取るようにしておくのです。そうすれば、会社はその資金を、後継者から自己株式を購入する資金に充てることができます。

生命保険の種類としては、終身保険が考えられます。いずれの保険も、解約すれば解約返戻金が受け取れるものです。しかし、自社株式の購入資金として利用する場合は、解約返戻金ではなく、先代経営者が死亡した場合に会社が受け取る死亡保険金です。

両者のメリットとデメリットを簡単にまとめると、以下の通りです。


終身保険とは?

終身保険は、定期保険のような一定期間のみではなく、一生涯、死ぬまで保障が続く保険です。つまり、必ず死亡保険金が支払われることになります。したがって、何があっても確実に会社が保険金を受け取れるようにしたいのであれば、終身保険が向いています。先代経営者がどれほど長生きしても必ず保険金が支払われるからです。ただし、貯蓄性が高い保険なので、保険料は全額が資産に計上されることになります。したがって、支払保険料で利益を圧縮するようなことは一切できません。


事業承継に生命保険を活用する際には税理士の支援を

事業承継のために自社株式を後継者へ引き継がせる際、税負担と買い取り資金が問題となりますが、その生前対策として生命保険が有効です。事業承継や相続生前対策のために生命保険を加入する際は、法人及び個人の所得税・法人税に与える影響、贈与税・相続税の増減、自社株式の評価が不可欠です。その際、必ず事業承継に詳しい税理士のアドバイスを求めるようにしましょう。事業承継コンサルティング株式会社へご相談ください。

 

一般社団法人を使った事業承継

2015-02-08

一般社団法人の設立はとても簡単

一般社団法人の設立はとても簡単で、公益目的でなくとも設立できます。設立時の組織は、最低3名(社員2名と理事1名、兼務可)が必要ですが、資本金は必要ありません。また、設立時の登録免許税は6万円(株式会社であれば15万円)で済みます。

 一般社団法人と相続税

一般社団法人は相続税がかからないことが大きなメリットになりますが、その理由は、出資者(オーナー)が存在しないからです。株式を発行しているわけでもなく、株式が発行されていない、誰のものでもない、宙に浮いたようなイメージの組織です。

株式会社であれば株式が相続財産となります。しかし、一般社団法人ならば株式を発行していないため、個人が保有している財産になりようがないのです。それゆえ、一般社団法人が保有する資産及び負債は、相続税とは無縁の財産になるのです。

一般社団法人が毎年1,000万円の税引き後利益を計上するとしましょう(もちろん法人税は課されます。)。それを蓄積すれば10年で1億円の価値になります。株式会社ならば価値1億円の会社としてその株式が相続税の課税対象となります。しかし、一般社団法人には持分が存在しないため、相続税の課税対象とはなりえません。

オーナー不在であるがゆえに支配権の維持が難しい

一般社団法人を設立して個人の資産管理を行った場合、親族内で支配を維持できるかどうかが問題となります。

社員(従業員という意味ではなく、株式会社での株主と同じように議決権を持ちます。)2名が社員総会を開催して理事(株式会社での取締役に相当します。)を選任します。それゆえ、オーナー不在の状況であるため、社員や理事を外部(知人・縁者・顧問税理士・反社会的勢力)に乗っ取られないように親族内で支配し続ける能力が必要なのです。

株式会社で資産管理を行って、株式を子供に引き継ぐ場合、会社支配権をどの子に持たせるかを決定して、株式を承継させます。

これに対して、一般社団法人の場合、法人の支配権をどの子に持たせるかを決定して、社員の地位を交代させます。この点、「家族で仲良く」と考えてしまうと、持分がなく社員や理事の変更等は自由であるため、子供全員を社員にすることができます。これは後継者決定問題の先送りとなりますが、使い勝手がいいのです。

一般社団法人に拠出した個人財産は取り返すことができるか?

 一般社団法人の設立を検討しますと、必ず出てくる質問が、「法人から財産を取り戻すことはできるのか?」というものです。オーナー不在の法人に移転しまうわけですから、個人の所有権を失ってしまうことになり、不安に思うことでしょう。

この点、定款で残余財産の分配の関する規定を設けることはできないものの、社員総会の決議で一般社団法人を清算すること可能です。清算するのであれば、残余財産分配(個人への財産の返還)を行うことができ、法人へ移しておいた財産を取り戻すことが出来るのです。

事業承継コンサルティング株式会社では、一般社団法人を活用した財産承継対策も支援させていただきます。

医療法人の事業承継とM&A

2013-09-25

近年、病院をはじめとする医療機関のM&Aが増加しています。

売り手は後継者不在や将来の経営に対する不安から、買い手は規模拡大による経済的メリット追求や地域医療計画等により病床を獲得することが困難なエリアへの展開を狙ってM&Aを決断するケースが多くみられます。

医療機関のM&Aを理解するためには、そもそも株式会社と異なる医療法人という制度の理解が不可欠です。

(1)医療法人制度の概要

A. 医療法人とは

病院には、個人の開業医が運営するケースと法人の形態で運営するケースがありますが、法人形態をとっているのが医療法人となります。 医療法人は、医療法に基づいて設立されるため、会社法に基づく株式会社と比べて、様々な制度が異なっています。

なお、医療法による区分によると、ベッド数が20床以上のものを病院、それ未満であれば診療所と区別されています。  

B. 医療法人の特徴

イ)非営利性が徹底され、営利目的の病院等の開設は許可されず、出資者に対する配当は禁止されています。「出資持分」という考え方は医療法人の非営利性に反するという見解により、現在では出資持分のある医療法人を設立することはできません(経過措置あり。)。

ロ)設立には都道府県知事の認可が必要です。

ハ)なお、医療法人総数のうち、財団は0.8%、社団は99.2%であり、ほとんどの医療法人は社団となっています(平成23年3月31日現在厚生労働省データ)。

C. 医療法人の類型と出資持分の有無

平成19年4月の第5次医療法改正により医療法人制度は、いわゆる「地上2階、地下1階の制度」となりました。この改正以降は非営利性の観点から出資持分に対する財産権を認めず、出資持分の定めのある医療法人を設立することはできないこととなりました

しかしながら、社団である医療法人のうち持分の定めのあるものが依然として約9割を占めているというデータがあります(平成23年3月31日現在)。医療法人M&Aについても、対象法人が持分の定めのある社団法人であるケースが最も多いものと想定されます。

イ)出資持分の定めあり

医療法人制度の「地下1階」に相当する法人です。旧制度下の法人制度のため現在は新規設立できませんが、既存の法人については当分の間存続が認められています。 出資者に財産権(退社時における持分の払い戻し請求権等)が認められている経過措置型医療法人と、持分の払戻等については払込出資額を限度とする出資額限度法人があります。

ロ)出資持分の定めなし

「地上1階」「地上2階」に相当する法人です。活動の原資となる資金を基金(返還義務のある拠出)という形で調達する基金拠出型法人と、一般の持分なし社団があります。その中でも、特に公共性の高い社会医療法人が「地上2階」にあたります。

D. 医療法人の意思決定機関

社団医療法人の場合は「社員総会」が意思決定機関、「理事会」が職務執行機関という位置付けになっています。なお、社員、理事とも主体になれるのは個人のみです。 出資持分と社員権がリンクしていない点など、医療法人M&Aにおいては非常に重要なポイントです。よって、M&Aの条件に経営陣の退社・入社を入れ込むことは必須となります。

イ)社員総会と社員

社員総会は構成員である社員により組織される意思決定機関です。医療法人においては一社員一議決権となっており、出資持分の多寡と議決権数は関係がありません。 すなわち、株式会社と異なり、持分のある医療法人であったとしても出資持分を増やして議決権を押さえるといったことはできません。 社員が出資持分を持つかどうかは医療法人の定款で決まるため、全く持分の無い方が社員となっていることもあり得ます。

ロ)理事会

医療法人は、理事を3人以上置かなければなりません。理事は、理事会という機関で医療法人の職務執行権限を持つこととなります。なお、理事のうち1名を理事長として選出する必要があります。理事長は原則として医師である必要があります、都道府県知事の認可を受けた場合に限り例外として非医師であっても選出可能です。

E. 医療法人が行うことのできる業務(介護との関連)

医療法により、医療法人が行うことができる業務は「病院」「診療所」「介護老人保健施設の運営」と定められており、これらを本来業務と呼んでいます。医療法人はこの他、本来業務に支障を来さない範囲で附帯業務(看護等の専門学校、薬局、有料老人ホームなど限定列挙)・付随業務(病院敷地内の売店、駐車場など)を運営することが可能です。

(2)医療法人のデュー・ディリジェンス

デュー・ディリジェンスにあたり、貸借対照表、損益計算書や各施設毎の採算管理資料、入院患者回転率表など財務・経営関連資料の調査はもちろん重要ですが、それらに加えて以下の項目がポイントになります。

イ)医療法人の類型等の確認(決算届の入手)

持分の定めのある法人か否かといった点を含め、医療法人の類型等を確認することが非常に重要です。医療法人の類型を確認できる資料として「決算届」が挙げられます。これは、医療法の規定に基づき医療法人が都道府県知事に対して毎年提出する書類です。この決算届は事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監事監査報告書で構成されており、医療法人の類型を含む全体像を確認するための有益な資料です。

ロ)診療報酬関連

日本の社会保障制度の中では、医療費の一部を国民負担、残りを健康保険組合等の保険者が負担することになっています。患者が診察を受けた後、医療機関は診療報酬請求書とレセプト(診療報酬明細書)を社会保険支払基金などの審査支払機関に提出・請求します。その医療機関のレセプト枚数により規模感を確認したり、支払基金からの入金通知書を入手して手続が適正に行われているか、過誤請求がどのくらい生じているか等を確認することが重要です。

なお、医療法人の社会保険診療報酬等については、事業税が非課税となります。 医療法人の評価を行ううえで繰延税金資産・負債を計上する際には、適用する実効税率にもご注意ください。

ハ)固定資産

建物や医療機器などに老朽化が進んでいる場合、M&A後に多額の投資が必要となることが想定されるため、いわゆる税務上の時価による評価では妥当性の確保が難しいケースがあります。また、医療機関の土地については流動性が低いことから、相続税評価等一般的に採用される評価額に連動しないこともあり得ます。 特に不動産については、場合によっては不動産鑑定評価書によって適正な価値を算定することや中長期的な修繕費用等の維持コストを見積もることが必要になることもあります。

二)人材の確保状況

医療機関にとって、人材の質を保つことは非常に重要です。特に医師・看護婦の採用について、一定のルートを確保しているかどうかを確認する必要があります。医師であれば医大の特定の医局にルートがある、看護師であれば地元の専門学校にルートがある、といった情報を入手することが重要です。他の業界に比べ、医療機関は多数の有資格者で構成されていることから人材についてもある程度の流動性がありますが、採用ルートの有無により経営の安定性をある程度予測することができます。

ホ)MS法人

MS法人とは「メディカルサービス法人」の略で、医療行為以外のサービスを提供するための法人です。医療法人への不動産賃貸やリネンサービス、医薬品の仕入・在庫管理等の医療周辺業務を提供することが一般的です。これにより、医療サービスに係る収入が医療法人とMS法人に分散されることとなります。

業務委託料や手数料率の設定等、税務署は節税目的のMS法人活用を比較的厳密に見る傾向がありますが、MS法人を積極的に活用し運営している医療法人が多数存在します。 医療法人の正常収益力把握ならびにM&A実行後のMS法人の取扱いを検討する必要があるため、MS法人を含めた対象医療法人グループのビジネス・フローを分析することが重要です。

(3)医療機関M&Aの取引スキーム

病院をはじめとする医療機関のM&Aを検討する際には、株式会社をはじめとする事業会社のM&Aとは異なり出資持分の有無や医療法・各自治体の認可といった業界特有の事項に配慮しつつ進めていく必要があります。

医療法人は、事業譲渡に加え、合併出資持分の譲渡経営陣の交代によるM&Aが可能です。前述の通り、「持分の定めのある法人」「持分の定めのない法人」のどちらに該当するかによって取り得るM&Aの手法が異なるため、留意が必要です。

イ)合併

組織再編行為については、医療法の中で合併(新設合併・吸収合併)のみが認められています。社団法人同士もしくは財団法人同士であれば合併が可能です。

ロ)出資持分の譲渡

持分の定めのある法人は出資持分譲渡によりM&Aが可能です。医療法には出資持分の譲渡に関する特段の規定が置かれていませんが、実務上は一般的に用いられています。この際、出資持分譲渡に伴い社員・理事長の退任を組み合わせることで医療法人の財産権と支配権の両方を移転させることになります。そこで、売り手にとっての手取額、買い手にとっての初期投資額の調整のため、医療法人のM&Aの対価を出資持分価値と役員退職金支給額に分けることも多く行われます。

ハ)社員の入社・退社

持分の定めのない法人は社員の入社・退社により、財団の場合は理事・評議員・監事の交代によりM&Aを行います。この場合、退任する経営陣に退職金を支給することをM&Aの対価として取り扱う手法が一般的です。

(4)スキーム検討上の注意事項

イ)対象医療機関が補助金の交付を受けている場合

医療機関が自治体から交付を受ける補助金については、通常は使途制限が設けられています。M&Aの対象となる医療機関が自治体から補助金の交付を受けて建物や医療機器を取得している場合、これら使途制限に該当してしまうときは補助金を返還する必要が生じます。M&Aを進めていく中で、対象医療機関が補助金を受けているかどうか、またその補助金の使途制限がどのような種類のものかを確認することが重要です。

ロ)理事長の利益相反取引について

医療法では、医療法人の利益を犠牲にして理事長個人の利益を優先する可能性のある「利益相反取引」について規定を置いています。理事長の所有する不動産(病院敷地など)を医療法人が譲り受けるケースや、医療法人から理事長への贈与など利益相反取引に該当する場合、特別代理人を選任する必要があります(医療法には罰則等の規定はありませんが、民法の規定を準用し無効な取引になるという考え方があります)。 M&Aのスキーム構築にあたりこのような利益相反取引が生じる可能性がある場合は留意が必要です。

 

一橋大学大学院商学研究科修士課程修了(経営学及び会計学専攻)
税理士、公認会計士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)
日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員

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