「株価を引下げる方法(5)持株会社の設立」

2013-07-01

不動産相続と事業承継

業績が好調で、翌期以降も黒字基調が継続すると予想される場合、将来的に株価が上昇して相続税負担が増加することは目に見えています。このような場合、緊急避難として持株会社を設立することにより、将来の株価上昇を軽減することが可能となります。

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株式の直接所有から間接所有へ

持株会社を設立することによって、事業会社の株式を直接所有している場合と、持株会社を通じて事業会社の株式を間接的に所有している場合とでは、株価の計算方法に違いがあることを活用します。すなわち、事業会社を間接保有にすると、直接保有にする場合と比較して相続税評価額を引き下げることができます。 

純粋持株会社とする場合

純粋持株会社とする場合には、相続税評価において株式保有特定会社となり、純資産価額方式によって評価されることになります。この際、保有する子会社株式の時価と簿価との差額、すなわち、含み益部分について42%の控除が認められるため、純資産価額を低く抑えることができます

直接所有する株式の「含み益」は、個人で株式を保有している場合には、すべてが課税対象となります。ところが、持株会社を通じて株式を間接保有していると、事業会社の「含み益」は法人税等相当額42%が控除されて評価されます。結果的に、株式の間接保有によって税負担を軽減させることができます。

もちろん、設立初年度は、事業会社の評価は持株会社における子会社株式の評価と一致して節税効果はありません。しかし、設立後、長期間にわたって事業会社が利益を計上することによって生じる含み益に対して、法人税等相当額42%を控除して評価することができるため、純粋持株会社の株価上昇を抑えることが可能となります。これは長期間にわたって効果が生じる方法ですから、将来の成長が期待される会社であるほど、早期に持株会社化すべきと言えます。

事業持株会社とする場合

持株会社に事業を営ませるのは、子会社株式の総資産に占める割合を50%未満に引下げ、株式保有特定会社から外すためです。これにより、持株会社の株式を評価の際には、比較的評価額が低く算出されることの多い、類似業種比準価額方式が適用できるようになります。

一般的には、不動産を保有させて事業会社に貸し付ける、人事・総務・経営企画などの管理部門のみ持株会社に残して事業会社と切り分けるなどの組織再編を行います。

持株会社を新設することによって上記のような株価引下げ効果がありますが、これは「株式移転」や「会社分割」を使って新会社を作るスキームに限定する必要はなく、「株式交換」等の組織再編スキームを使って既存の会社を持株会社化するスキームによっても同様の効果を得ることができます。すなわち、オーナーが所有する既存の会社へ他の会社の株式を移転させることによって、グループ内で親会社と子会社の関係を作り、持株会社化させるのです。

上述したように、持株会社は株価上昇を抑える節税策として機能しています。しかし、最近では、節税以外の様々なニーズに対応して持株会社を設立した結果として相続対策になったというケースが多く見られます。

オーナーが自社株を現金に替えたい場合

例えば、オーナーが保有する自社株を現金化したいというニーズが挙げられます。これは、オーナーが「まだ退職はできないから退職金はもらえない、しかし、元気なうちにある程度まとまったお金をもらって、自由に使いたい。」という経営者が考えることです。また、株式の贈与を受けた後継者が納税資金を作るために株式の一部を現金化しようとする場合もあります。

もちろん、株式を発行会社に売却して現金化するのではなく、後継者へ売却することが最善の相続対策ではありますが、後継者が銀行借入れをしなければ購入資金が用意できない場合には無理があります。

しかし、自社株の取得を行おうとする場合、株主総会の特別決議による承認を得られるとしても、税務上の取扱いが問題となります。すなわち、発行法人による自己株式の買取りは、売り手側の売却益が「みなし配当」となり、最大で44.4%の所得税が重く課されます。

そこで、税負担を軽くするため、発行会社ではない関連会社に売却するという案が浮上します。関連会社で事業をやっている会社があれば、株式の購入資金を十分に持っている場合があります。また、事業法人であれば、銀行借入れをしたとしても返済していくことができるでしょう。結果として、株式を取得した関連会社は、持株会社としての性格も持つことになります。

この際、関連会社の株主を後継者としておくことができれば、株式の買取りによって、結果的にオーナーから後継者へ株式移転を実行したこととなるため、さらに効果的でしょう。

親族に分散した株式を集約したい場合

もう一つは、親族間で株式が分散しているため、株式発行法人で自社株を買取って集約したいというニーズです。親族に株式が分散している状況は相続時に問題となるため、早めに解決しておきたいと思ったとき、まず思いつく案の一つです。

この点、自社株の取得であれば、親族の理解も得やすい場合が多いようですが、税務上の取扱いが問題となります。すなわち、発行法人による自己株式の買取りは、売り手側の売却益が「みなし配当」となり、最大で44.4%の所得税が重く課されます。

そこで、税負担を軽くするため、発行会社ではない関連会社への売却案が浮上します。関連会社へ売却すれば、売り手側の売却益に対する所得税は20%で済みます。結果として、関連会社は持株会社としての性格を持つことになります。

この場合においても、関連会社の株主を後継者としておけば、株式の買取りによって、結果的に分散していた株式を後継者へまとめることができたことになります。

グループ内の資金移動は受取配当金の益金不算入を活用

持株会社が子会社である事業会社から配当を受ける場合、25%以上を6ヶ月継続保有すれば、その受取配当金が益金不算入になるため、非課税で資金移動することができます。

また、上述したような株式買取りや組織再編の結果として株式を相互持ち合いするケースが多く見られますが、株式相互持ち合いを解消するために自己株式の買取り行う場合、「みなし配当」の益金不算入によって税負担を軽減できる場合があります。

株式承継対策は、相続税はもちろんですが、法人税、所得税など総合的に検討して進めていく必要があります。

後継者を株主とした持株会社設立

持株会社設立による株式承継対策を行う場合、上述したように、緊急避難の策として、オーナーが自ら持株会社を設立することが効果的ですが、最善の手段は後継者が株主となって持株会社を設立することです持株会社の株式を現オーナーではなく後継者が所有していれば、オーナーの相続時に株式が相続財産に含まれていないため、自社株に係る相続税とは無関係となります。その結果、後継者はオーナーの相続税を気にすることなく会社の業績アップに邁進することが可能となります。

もちろん、会社の株主が変更されるわけですから、株式の譲渡(売却又は贈与)が必要となり、所得税又は贈与税の負担が伴います。また、売却の場合には、後継者が購入資金を用意しなければなりません。しかし、健全な会社であれば、事業承継に必要な資金を積極的に融資する金融機関が多く、銀行借入れによって購入資金を調達するケースが多く見られます(金融機関が積極的に提案しています。)。また、生前贈与の場合には、相続時精算課税の適用によって一気に株式を移転してしまうことも効果的でしょう。

後継者が設立した持株会社に株式を売却することは、遺産分割に伴う事業承継対策にも有効です。事業継続を考えた場合、後継者が株式を所有することが会社経営を行っていくうえで、とても大切になります。後継者以外の相続人に株式を相続させることは、会社経営を脅かすことにもなりかねません。そのため、事業会社の株式を売却することで現金化し、後継者以外の相続人には現金を相続させることで、遺産分割に係る親族間の争いを回避することができるのです。

なお、会社の全部を後継者へ承継するのではなく、高収益部門など事業の一部のみを承継させようとする場合、後継者が設立した会社に対する事業譲渡又は会社分割によることになります。これについては、高収益部門の後継者への移転方法」 をご参照ください。

「高収益部門の後継者への移転方法~会社分割と事業譲渡」

2013-06-30

不動産相続と事業承継

業績好調の会社の株式をオーナー経営者が保有していると、その株式の評価額はどんどん上昇していくことになります。つまり、後継者の相続税支払い予想額は年々増えていくということです。高い利益水準に対して法人税を支払った上に、相続税負担も大きくなる状況ですから、株式承継対策が必要となります。

株式承継対策として、高収益部門を後継者に移転することが効果的です。すなわち、高収益部門を分社化して新会社を設立し、その経営を後継者に任せてしまいます。もちろん、後継者が未熟だというのであれば、オーナーが新会社の経営に関与しても構いません。ここでのポイントは、将来の収益力を先に後継者へ移転して、株価の上昇とそれに伴う相続税負担の増加を抑えることなのです。

後継者が自ら設立した新会社へ高収益部門を移転することになりますが、その際の組織再編スキームとして、事業譲渡会社分割(吸収分割)があります。この2つのスキームを比較してみましょう。

会社分割とは?

会社分割には吸収分割と新設分割の2つがあります。

吸収分割とは、分割法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割承継法人に承継させることをいい、新設法人とは、一又はニ以上の分割法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継することをいいます。会社分割を行う場合には、原則として、株主総会の特別決議による承認が必要となります。

分割法人は分割承継法人に事業を移転し、その対価として株式又は金銭その他の財産を取得することになります。ここにいう財産の種類は、典型的には、分割承継法人の株式、その子会社あるいは関連会社の株式又は社債などの有価証券が考えられるほか、現金での対価の交付も可能です。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業活動の全部又は重要な一部を譲受人に引継がせ、譲渡会社がその限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいいます。

債権債務の承継における違い

会社分割では、分割法人の権利義務は包括的に分割承継法人に承継されるため、契約上の地位は相手方の同意なしに承継されます。

これに対して、事業譲渡では、譲渡会社において個別に契約の相手方の同意を得る必要があります。例えば、売掛金の承継については債権譲渡の手続きが、買掛金の承継については債権者の承諾が必要となります。それゆえ、相手方が多数存在する場合には、かなりの時間と労力が必要となる場合があります。

民法に規定する債権譲渡の手続きとしては、譲渡会社から債務者に対し、債権譲渡の通知をするか、または、債務者が債権譲渡について承諾をする必要があります。この債権譲渡通知、承諾は、第三者への対抗要件として、確定日付ある証書によって行わなければならないことになっています。

債権者保護手続きにおける違い

会社分割では、分割法人の債権者のうち、会社分割実行後の分割法人に対して、債務の履行を請求できなくなる者は、意義を述べることができます。分割法人は、債権者が一定期間内(最低1ヶ月)に意義を述べることができることを官報で公告するとともに、各債権者に個別に催告しなければなりません(官報公告に加えて、日刊新聞紙への掲載又はホームページでの電子公告を行った場合は、個別催告が不要。)。

これに対して、事業譲渡では上述したように債権譲渡の手続きが必要となりますので、会社法に規定する債権者保護手続きは必要ありません。

労働者保護手続きにおける違い

会社分割では、個々に従業員の同意を得る必要はありませんが、労働承継法の適用によって、労働者との協議、労働者への事前通知(株主総会の2週間前まで)が必要となるとともに、労働者の異議申出が認められています。

これに対して、事業譲渡では、従業員の個別の同意が必要となり、労働承継法の適用はありません。従業員の意向を把握した上で、譲渡会社から譲受会社への承継方法(転籍、出向)、処遇、退職金の取扱いを決めることになります。

法人税、住民税及び事業税の取扱い

事業譲渡の場合、譲渡会社から譲受会社に譲渡した資産及び負債の譲渡価額と帳簿価額との差額について譲渡損益が発生します。すなわち、譲渡損益は法人税、住民税及び事業税の課税対象となります。

一方、譲受会社は資産及び負債を時価で取得するため、その対価が時価純資産価額を超える場合には「資産調整勘定」を認識することができ、資産調整勘定の償却を通じて、将来の課税所得を圧縮することができます。

これに対して、会社分割を行う場合、税制適格要件の判定を行わなければなりません。すなわち、適格分割に該当するか非適格分割に該当するかによって税務上の取扱いが大きく異なってきます。 適格分割に該当した場合には、分割承継法人は資産及び負債を「簿価」で受け入れることになりますが、非適格分割に該当した場合には、分割承継法人は資産及び負債を「時価」で受け入れることになります。

事業承継対策として会社分割を行う場合は、事業部の新設分割を行なって新会社の株式を後継者に譲渡する方法、後継者が設立する新会社に対して吸収分割を行なって対価として現金を支払う方法が考えられますが、いずれの方法を採用しても、ほとんどのケースにおいて非適格分割に該当することになります。なぜなら、税制適格要件を満たすためには、グループ内の適格分割か、共同事業を営むための適格分割に該当する必要がありますが、事業承継対策として会社分割を行う場合はいずれのケースにも該当しないからです。

会社分割が非適格分割に該当する場合には、分割法人の資産及び負債が「時価」で分割承継法人へ移転することになります。それゆえ、分割法人から分割承継法人に移転した資産及び負債の時価と帳簿価額との差額について譲渡損益が発生します。すなわち、譲渡損益は法人税、住民税及び事業税の課税対象となります。

一方、分割承継法人は資産及び負債を「時価」で取得するため、その対価が時価純資産価額を超える場合には「資産調整勘定」を認識することができ、資産調整勘定の償却を通じて、将来の課税所得を圧縮することができます。

消費税の取扱い

事業譲渡では、資産及び負債の移転に伴って消費税等の負担が発生します。これに対して、会社分割は課税対象外取引とされているため、消費税等の負担は発生しません。

借地権の問題

建物を後継者の会社へ移転し、土地を賃貸すると「借地権」の問題が生じます。もちろん、適正な地代を支払っていれば、このような問題は生じません。適正な地代とは、更地としての土地の時価又は公示価格もしくは相続税評価額の6%とされています。自社株の評価の際には、この借地権が法人の財産となりますが、土地の値上がり部分はオーナーの個人財産に加算されることがなくなります。法人の株主を後継者にしておくことが相続税対策として効果的です。

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後継者への事業譲渡が相続対策として有効


まとめ

主要な相違点を比較しますと以下の通りとなります。
会社分割 事業譲渡
意思決定機関 (分割法人)株主総会の特別決議 (譲渡会社)株主総会の特別決議
(譲受会社)他社の営業全部の譲受けを行う場合は株主総会の特別決議が必要
債権債務の承継 相手方の同意は不要 相手方の同意が必要
債権者保護手続き 官報公告が必要(最低1ヶ月) 不要(個別同意が必要であるため)
労働者保護手続き 労働承継法の適用がある 労働承継法の適用はなく、個別に従業員の同意を得る
税務上の取扱い
(非適格再編の場合)
(分割法人)損益を認識
(分割承継法人)時価で受入れ、資産調整勘定を認識
(譲渡会社)損益を認識
(譲受会社)時価で受入れ、資産調整勘定を認識
商業登記 必要。分割法人は僅少だが、分割承継法人では増加資本金の1,000分の7を乗じた金額(ただし、ほとんどを資本準備金とすれば僅少) 不要
不動産取得税 発生するが、非課税要件を満たす場合には発生しない 発生する

一橋大学大学院商学研究科修士課程修了(経営学及び会計学専攻)
税理士、公認会計士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)
日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員

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